(21.10.30) 鳩山政権はてんやわんやの大騒ぎだ 普天間基地移設問題
当然といおうか、やっぱりというべきか、鳩山政権の普天間基地移設問題はてんやわんやの大騒ぎになってしまった。
もともと自民党政権でも手を焼いていたこの問題を、社民党を内部に抱える鳩山政権がうまく処理できるはずがないと思っていたが、それにしてもこの混迷振りはひどい。
大騒ぎの元は担当大臣の北沢防衛相が苦し紛れに、「(キャンプ・シュワブ)への移設は『国外や県外というわれわれ民主党の公約』をまったく満たしていないというわけでない」と発言したのがきっかけだ。
では「キャンプ・シュワブは沖縄県以外にあるのだろうか」とみんな思ったはずだが、当然沖縄県名護市にある。
北沢防衛相は海兵隊の一部をグアムへ、また普天間基地に配置されている空中給油機を岩国に移設することをもって、「まったく満たしていないというわけでない」と言ったのだが、これはかなり無理筋だ。
「じゃー、キャンプ・シュワブへの移設はなくなったのですか?」という問いに答えられない。
この混乱に輪をかけたのが岡田外相の発言で「代替地が嘉手納基地にならないか。沖縄の二つの大きな基地が一つになるのはメリットだ」と発言し、かってにクリントン国務長官に直談判に出向くと言い出した。
岡田外相は本気だが、クリントン長官がこのような政府内部でも未調整の岡田外相の思いつき発言に軽々と乗ってくるとはおもわれない。
なにしろ普天間基地移設は、橋本政権以来の懸案事項で、何回もすったもんだした挙句に、06年にようやく「在日米軍再編計画」として日米両政府が合意したものだ。
ゲーツ国防長官の言葉を借りれば「キャンプ・シュワブへの移設は、政党間の約束ではなく、日米両政府の合意事項だ」ということだ。
この問題では社民党ももちろん黙っていない。福島党首は「普天間基地の問題解決には沖縄県民の負担軽減の観点から対応していくべきだ」と念をおした。
当の鳩山総理は「最終的に決めるのは私だ。選択肢を新たに調査している段階だから、それなりの時間がかかる」と悠然と述べたが、本当は選択肢など存在しない。
外交はゲーツ国防長官の言うように「両国政府の合意事項」だから軽々に変えることなどできない。
江戸幕府が締結した日米和親条約を修正するのにどれだけ明治政府が苦労したかを思い出してもらえば分かるし、「サンフランシスコ講和条約は吉田茂首相が締結したので、政党が違うから見直しが必要だ」なんて言い出せば、国際秩序が崩壊してしまう。
さすがに平野官房長官が見かねて「もう少し、注意して発言してほしい」と苦言を呈したが、鳩山政権はみんなで麻生前総理の舌禍をまねているみたいだ。
アメリカの保守系新聞で共和党支持のウォールストリート・ジャーナルはとうとう頭にきて、「鳩山首相が代替案を十分考えているとは思われない」し、キャンプ・シュワブへの移設は国家間の約束事項で、もし「普天間基地移設計画が白紙になれば、当然沖縄海兵隊のグアム移設も白紙になる」と苛立ちを見せた。
そして、返す刀でそれほどアメリカ軍を海外に追い出すつもりなら、
① 日本は独自に防衛費を増額するのか
② 北朝鮮の核や、中国の軍拡にアメリカなしで対抗できると思っているのか
③ 外交(口先)だけで、日本は安全を守れると思っているのか
と、噛み付いた。
普天間基地移設問題は国内問題ではなく国際問題だとの指摘である。
実際普天間基地移設問題は、福島党首の言うような「沖縄県民の負担軽減」というような視点では解決できない問題といえる。
国際問題という視点から見れば普天間基地の位置づけは、アメリカが軍拡著しい中国や、核開発やミサイルを装備した北朝鮮と対峙する、その戦略のあり方にかかっていることがわかる。
実は日高義樹氏がつとに指摘しているように、アメリカ太平洋軍は現在大掛かりな再編作業を行っており、対中国、対北朝鮮の基地を沖縄からグアムに移設している。
一番の理由は中国のミサイル増強がすさまじく、08年に行われたアメリカ太平洋空軍の演習(中国軍とアメリカ軍の戦闘を想定した演習)では、中国の移動式ミサイルで沖縄の基地はほぼ全滅してしまうことがわかった。
しかも日本の基地では弾薬庫が地上にあるため、それが破壊されたときの被害は想像を絶する。
「まずい、このままでは沖縄駐留アメリカ海兵隊は全滅してしまう」
そのため、アメリカ軍は嘉手納を見限り、グアムを前線基地に再編成することにして、最新鋭のF22戦闘爆撃機やB1、B2という戦略爆撃機はグアムにのみ配置することにしてしまった。
「グアムならミサイルが飛んでくるまでに迎撃が可能だ。中国の先制攻撃さえ防げれば反撃ができる」
そうしたアメリカの世界戦略の流れからすると、早晩嘉手納基地も普天間基地も実質的にはアメリカにとって不要な基地になるのだが、たった一つのメリットは返還する時に日本から返還費用を巻き上げることができることだ。
「日本がそれほどまでに基地を返還してもらいたいなら、グアムに移設する費用を日本政府が負担すべきだ」
さて、こうした情勢下で日本はどうすればいいのだろうか。最善は鳩山総理が言うように「結論を出すまでには時間がかかる」といって何もしないで動かないことだ。そうすれば米軍は自分の都合で沖縄からグアムに移っていく。
もっともその場合は日本は独自に中国と北朝鮮に対決しなければならなというさらに困難な問題に直面する。
だが、中国のミサイル攻撃を恐れてアメリカ軍がグアムに逃げてしまう以上、日本は日本でそれなりの覚悟をもって中国と対峙するしか残された道はない。
(今日のYou Tube は光徳寺です。村田川を越えて行きます
http://www.youtube.com/watch?v=Nt9X8Dbsex0)
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コメント
論述の内容と写真の仏さんの表情の組み合わせに感心してしまいました。
辺野古移転の件は、きっこのブログによれば、もともとは米からはヘリコプターの発着場という小さなものを要望されていたのに、政府がよってたかって今の大げさな規模になってしまったのだそうです。
なぜ小さな要望というのかが判らなかったのですが、グアム移転という前提に納得しました。とはいうものの、今後の中国との対峙方法、胃の痛くなるところです…。そこへいくと鳩山総理の東アジア構想も、さもありなん、と思えてしまう。(是非はともかく)
(山崎)かつて日本が東アジア構想のようなものを提言すると、日本が世界をリードしようとしていると思われていましたが、今は弱さの構想なので東南アジアや中国の台頭を恐れている周辺国からは好意的に受け止められています。
みんなで中国を封じ込めようという意味ですが、一方中国はこの構想を利用して覇権を確立しようとしています。
ほとんど同床異夢の世界ですが、現状では中国が東アジアの覇者になりそうです。
投稿: 横田 | 2009年10月31日 (土) 10時01分