(21.10.17) 羽田の「国際ハブ化」のしまらない話 前原国交相の腰砕け発言
なんともしまらない話になってきた。
前原国交相の「羽田空港の国際ハブ化」の話である。
10月12日に前原国交相が「首都圏空港を国内線と国際線に分離する原則を取り払い、24時間稼動する国際空港化を徐々に目指していきたい」と述べたときは、さすが民主党は今までのしがらみを断ち切って、ようやくまともな航空行政をするようになったと思ったが、14日には急速にトーンダウンした。
14日、千葉県の森田知事と会談後、国交相は「成田がメーンと言う位置づけは変わらない。羽田の第4滑走路ができても成田が中心的な役割だ」と述べたが、そうなると12日に言った「国際ハブ化する空港は一体どこなんだ」と聞きたくなる。
一方、前日おおげさな怒りの会見をした森田知事は、「千葉に対しての思いやりが感じた。大臣と私の考えは同じ」と言って満面の笑みを浮かべたが、今までと一体何が違うのかさっぱり分からなかった。
過去自民党政権の航空行政は「国内・国際分離」だったが、これは世界の流れに完全に逆行し、韓国の仁川空港やシンガポールのチャンギ空港に完全に遅れをとってしまった。
なにせ成田空港は、日本の人口の半分以下の韓国の仁川空港や、たった500万人のシンガポールのチャンギ空港より国際旅客数が少ない。
世界的視野で見たら完全にローカル空港と言える。
成田がローカル空港になった最大の原因は滑走路の拡張がままならないからで、ようやく2本体制ができたものの、騒音問題でいまだに24時間の使用ができない。
これではハブ化しようにも発着数に制限がありすぎて、国際便を受け入れるのがやっとと言う状況だ。
注)一般的には1滑走路で1年間にさばける発着数は10万回。
羽田は来年4本になり約40万回、成田は2本で約20万回となる。
なぜハブ化しないと問題かというと、「国内・国際分離」は地方から外国に行く人や、外国から地方に来る人たちにとって、不便この上ないからである。
たとえば仁川空港やチャンギ空港であればトランジットのロビーで休んでいれば、荷物は自動的に運んでくれるのに、羽田や成田ではその荷物をわざわざ受け取って、さらに1時間あまり電車で運び、また次の空港で荷物を預け入れしなければならない。
そのたびに、運んだり手荷物検査を受ける煩わしは言葉にあらわせない。
それでも日本人であれば成田と羽田間の電車に乗るのは難しくないが、日本語を理解しない外国人にとっては、電車に乗るのも一苦労で、自分が乗っている電車が果たして正しいのかどうか神経をすり減らさなければならない。
注1)初めて訪れた国でそこの国の鉄道やバスをすぐに乗りこなす外国人などいない。
注2)JALには「てぶらチェックインサービス」と言うものが有り、地方に住んでいる人が直接荷物を成田に送ることはできる。ただしこのサービスはJALの持ち出しになっているはずだ。
一方外国人の場合はどうしても成田で荷物を受け取って羽田まで運ぶことになる。
そんな苦労をするくらいなら、地方に住む日本人にとって韓国の仁川空港を使用して海外に行くほうがどんなにか便利かわからないし、外国から地方都市に来る外国人も同じだ。
現在仁川空港と日本の地方空港の間には28の定期便が飛んでおり、おかげで地方に住む人たちが外国に行く場合も不便をせずにいられるのだから、われわれは韓国にどんなに感謝しても感謝しきれないほどだ。
「日本の航空行政の失敗を補ってくださって、カムサハムニダ」
しかしこの航空行政の失敗はそれなりの問題があり、JALやANAはみすみすお客を韓国のアシアナ航空に取られてしまい、これだけが理由でないもののJALはほとんど倒産寸前に追い込まれてしまった。
前原国交相としては長期的視野にたって日本の航空業界(特にJAL)を支援するため、この羽田の国際ハブ化を打ち出したのだが、さっそく腰砕けになっている。
実は自民党政権のときでも「国際・国内分離」は建前で、実際はなし崩し的に羽田をハブ空港にしようとしていた。
① 03年以降、ソウル、上海、香港への定期チャーター便が就航している(ここでのチャーター便とは路線認可をとらないが、実際は定期便と同じように運行している路線)
② 成田で発着できない夜間の北米や欧州路線の受け入れ
このなし崩し方式は日本人の得意技で、自衛隊と同様にたてまえと実態が異なるのだが、前原国交相はこのたてまえを実態に合わせようと言ったので、憲法第九条と同じように大騒ぎになってしまった。
しかしこの「国際・国内分離策」を踏襲していく限り、じきにJALは倒産してナショナルフラッグは無くなり、ANAも細々と国内航空路線だけで生き残り、日本の地方空港は韓国の仁川空港のローカル線になることは確かなので(成田を拡張できない以上)、羽田をハブ化するのは国家戦略としては当然の帰結なのだ。
しかしここでも 八ツ場ダムと同様のしがらみが出てきて、既得権を失う自治体から大反対の合唱が始まっている。
かつて織田信長は楽市楽座の制度を導入するため、従来の座と言われていた勢力を駆逐したが、変革には当然既得権者の痛みが発生するし、そうした人々が抵抗するのは当然だ。
今のところ前原国交相と森田知事は同床異夢だが、前原国交相の腰砕け発言を見ると、国交相はたてまえを残したまま、羽田を実質的にハブ化する路線(自衛隊と同様の路線)に切り替えたみたいに見える。
なんともしまらない話になってきた。
注)なお「羽田のハブ化」問題について、「ちば公園のベンチから」の斎藤さんがとても興味深い記事を書いていた。参照されると面白い。
http://midorinochiba.cocolog-nifty.com/blog/2009/10/post-f6c7.html
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