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(21.10.9) オーストラリアの意外な自信 政策金利の引き上げ

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 ここにきて豪州準備銀行RBA)が政策金利3.00%から0.25%引き上げ3.25%にしたことが世界の経済界に衝撃を与えている。
それと言うのも9月下旬に開催されたG20の会議で「景気刺激策を緩和して金利を元に戻すのは早すぎる」と確認したばかりだからだ。

 経済運営で最も難しいのはこの緩和から引締めに転ずるときで、早すぎると経済が再び失速するし、遅すぎると有り余った資金が土地や株式に流れてインフレが亢進する。

 オーストラリアG20の一員なのだが、「わが国は別だ。G20の確認など知らぬ」と言う態度だ。
RBAスチーブンス総裁は「豪州経済の状況は予想を上回る強さを見せ、景況感などを示す指標も回復してきた」と非常に楽観的だ。
この時期にこれだけ楽観的になれる先進国の総裁は珍しい。

 従来オーストラリアの経済は貿易収支は常に赤字(経常収支も赤字で、それを資本収支で生めることで成り立っていた。
貿易収支の赤字分を各国からの借入や投資で補ってきたわけだ
アメリカとそっくりだが、一つだけアメリカと決定的に違うところがある。

 それはオーストラリアドルが基軸通貨でないと言うことで、放っておいても資金が集まるアメリカと違う。このためオーストラリアは基本的に高金利政策をとってきており、この高金利で各国の資金を呼び寄せていた。
リーマンショックが始まる前の政策金利は7.25%で、日本においても外貨預金として人気だったはずだ。

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 もう一つのオーストラリアの特色は資源大国ということで、石炭や鉄鉱石の主要な輸出国だが、その最大の貿易相手国が最近は日本に代わり中国になってる。
このため中国経済が好調になれば、オーストラリア経済も潤う構造であり、昨今の中国の経済成長を好感してRBAは強気になった。

中国の経済成長は目覚しく、近隣の経済圏や商品市場に大きな影響を及ぼしている」という訳だ。
今回の利上げの直接的な理由としては「企業信頼感指数が+18ポイントで、小売売上高が09年8月、前月比0.9%の増加になった」と言うことだが、オーストラリアの企業家のマインドも非常に明るいと言うことだろう。

 また昨今住宅価格が上昇して住宅融資が拡大していることもRBAの利上げ材料になっている。
このままの低金利を放って置くと、インフレが再発するのではなかろうか

 かくしてRBAとしては伝統的な高金利政策に戻るのが正しいという判断をしたのだが、いつまでも低金利でいると国内的にはインフレが起こり、対外的には外資が入ってこなくなることを恐れているのだろう。

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 さてこのオーストラリアの判断は正しいだろうか。
すべてはここでも中国と言うことになる。中国の第2四半期のGDPの伸びは政府発表で7.9%であり、本年度目標の8%は達成できると強気だ。

 私は先に中国のマクロ数字政治的粉飾があり、信頼できないことを述べたが、数字はともかく中国政府がまれに見るケインズ政策を実行していることは確かだ。
http://yamazakijirou.cocolog-nifty.com/blog/2009/09/21910-f18a.html

 これにより経済は上向いてきており、日本韓国輸出産業も息を吹き返している。だから中国を主要な貿易相手国としているオーストラリアが楽観的になる気持ちは分かる。

 問題は中国が懸命な財政・金融政策をとっている間に、世界経済が持ち直すかと言うことになるが、アメリカ経済は相変わらずどん底であり、ヨーロッパも日本も急激な回復は望むべくも無い。

 その結果、中国は今までの外需頼みを止めて、内需重視に転換して自立的な経済成長を達成することを求められているが、それは中国に資金的余裕がある間はできると言うことだろう。
http://yamazakijirou.cocolog-nifty.com/blog/2009/09/21924-188c.html

 かつて日本も1991年にバブルが崩壊した後、赤字国債を増発しておよそ150兆円規模ケインズ政策を行ってきた。そしてそれが有効な間はどうにか数%の経済成長が可能だった。
中国はあのときの日本と同じで、溜め込んだ資金でここ2年間で52兆円規模のケインズ政策を行うことにしている。しかし資金が底をつけばGDPの成長率は鈍る。

 オーストラリアの利上げはすべて中国経済頼みであり、中国経済が世界経済のけん引役になれるとの前提に立っている
はたして中国と心中する気になったスチーブンス総裁の読みはあたるだろうか。
早すぎる引締め政策に転換して失敗し、経済を失速させた橋本内閣のようにならないだろうか。

 世界各国の経済担当者は、このオーストラリアの早すぎる決定に戸惑いながらも、その結果に注目している。
しかしその結果が判明するのはもう少し時間がかかりそうだ。


 


 

 

 

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