(21.9.3) アメリカ商業用不動産価格の暴落と金融危機の第2段階
(金融危機第2段階の足音が近づいてきたと言っているワンちゃん)
サブプライムローン問題に端を発したアメリカの金融恐慌は表面的には落ち着いている。特に5月のストレステストの結果発表で、追加する資本金は10社に対し、せいぜい7兆円規模だとFRBがお墨付きを与えてからまったく問題がないかのようだ。
決算数字を見ても第一四半期以降黒字の金融機関が続出しており、これで金融危機は収束したとFRBは考えているらしい。
もっともなぜ黒字になるのかは証券化商品の時価会計を止めたからで、その理由が振るっていて、誰も証券化商品を買う人がいなくなり、市場価格が分からなくなってしまったからである。
「どうせ市場価格が分からないのなら取得原価でいいや」FRBは太っ腹だ。
これで隠された住宅関連の損失はIMFの試算で09年4月現在約90兆円(9900億ドル)規模になるから、黒字にならないほうがおかしい。
サブプライム問題をこうして隠蔽していたら、今度は商業用不動産の価格が下落し始めた。住宅価格は06年から暴落が始まったのだが、商業用不動産はそれから2年遅れて08年から暴落し始めた。
個人より企業の方が資金的な懐が深く、持ちこたえていたのだろう。
住宅価格の方はピークから約35%低下して下げ止まりの傾向が見えてきたが、商業用不動産は約35%低下してこちらはさらに低下傾向を示している。
日本の例では、商業用不動産価格はピーク時から87%下がってようやく下げ止まったので、それから見るとまだまだ地獄を見そうだ。
商業用不動産価格の暴落がどの程度金融危機問題に発展するかは融資規模を見るとわかる。
住宅用不動産と商業用不動産の金融機関の融資規模(証券化商品を含む)を比較すると、09年4月現在のIMFの推計で住宅用がローン・証券込みで約1100兆円(12兆ドル)、商業用が約240兆円(2.6兆ドル)だから住宅用の約2割に相当する。
一方評価損失は住宅用がこれもローン・証券込みで130兆円(1.4兆ドル)、商業用が38兆円(0.4兆ドル)で、住宅用の約3割に相当する。
ただし問題は商業用不動産の価格がさらに低下し、たとえば日本に倣って70%程度低下すると評価損は76兆円規模になり、住宅用の約6割になってしまう。
今問題になっているのは、商業用不動産価格は今後も急低下して、ピーク時対比70%程度(87%はともかく70%は行きそうだという感度)は低下するのではないかと思われていることだ。
「こりゃ、ヤバイ。住宅用だけでなく商業用もつぶれたら、金融機関は持たない」
この商業用不動産の価格の急低下についてリチャード・クー氏は「金融の問題が再び注視されるようになるのは時間の問題」だと氏の本「世界同時バランスシート不況」の中で以下のように述べている。
「(09年)8月時点の株式やCDS市場は、足元で月間7.6%も下がっている商業用不動産の問題を・・・無視しているが・・・いつまで続けられるか疑問である。
米国の住宅価格はピークから約35%下がったといわれるが、・・・その損失は約140兆円(IMFの試算では約130兆円)といわれている。
(そこに)商業用不動産が35%も下がった問題が乗っかるのだから、・・・金融の問題が再び市場で注目されるのは時間の問題だろう。
商業用不動産価格については価格の急落が始まったばかりであり、底入れの気配はない」
注)市場は最近(8月末以降)この商業用不動産価格暴落に伴う金融機関の損失に気づいてきたみたいで、株式の動きが不安定になっている。
また為替もじりじりと円高になってきた。
ひところ高くなっていた原油価格も再び低下すると私は思っている。
アメリカの金融問題はサブプライム問題から、商業用不動産の暴落問題に移ってきたので、今後はこの価格動向に目が離せなくなってきた。
金融危機の第2段階といえる。
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