h(21.9.11) 鳩山由紀夫氏の政治哲学と日米同盟の行方
次期総理大臣鳩山由紀夫氏の「私の政治哲学」という論文がVoice9月号に記載された。またその一部(特に外交政策)についてニューヨークタイムズ紙に掲載され、これがアメリカの保守層に衝撃を与えていると言う。
「どうやら鳩山は反米主義者らしい」という感度だ。
私もこの「私の政治哲学」という特別寄稿を読んでみたが、政治家が書いた論文として際立って格調が高く、鳩山氏が並みの文筆家でないことがよく分かった。
この論文の骨子は「友愛」である。友愛と言う言葉はそれほど一般的ではないが、祖父鳩山一郎氏がクーデンホフ・カレルギーの「全体主義国家対人間」の日本語訳を行ったときに、フランス革命のスローガンの一つだった「博愛」をあえて「友愛」と訳したのだという。
クーデンホフ・カレルギーと言っても私を含めほとんどの人が知らないが、戦前「汎ヨーロッパ主義」を唱え「今日のEUにつながる汎ヨーロッパ運動の最初の提唱者」でナチスを批判したため、ヒットラーに追われアメリカに亡命した人だ。
その時の逃避行で映画カサブランカのラズロのモデルになった人だそうだ。
カレルギーの「友愛」は中庸の精神であり「友愛が伴わなければ、自由は無政府状態の混乱を招き、平等は暴政を招く」し「人間にとって重要でありながら自由も平等もそれが原理主義に陥るとき、それがもたらす惨禍は計り知れない」という。 鳩山氏はこのカレルギーの友愛の精神で、平等の原理主義に陥った共産主義や全体主義を否定し、返す刀で自由のアメリカ型資本主義を否定する。
「冷戦後の日本は、アメリカ発のグローバリズムという名の市場原理主義に翻弄され・・・・・・・自由の経済形式である資本主義が原理的に追求され・・・・人間は目的でなく手段に貶められた」
そして「道義と節度を喪失した金融資本主義、市場至上主義にいかにして歯止めをかけ、国民経済と国民生活を守っていくか」が政治家の使命だと鳩山氏は述べる。
自分は中庸の政治家と言う位置づけだ。
鳩山氏の主張は国内政治については明確だ。
「友愛の政治は、衰弱した日本の公の領域を復活し、また新たなる公の領域を創造し、それを担う人を支援していく」
その具体的方法として、
① 郵政民営化は、長い歴史をもつ郵便局とそれを支えてきた人々の地域社会での伝統的役割を復活させるために、(小泉内閣の郵政民営化を見直し)
② 中央集権国家である現在の国のかたちを、地域主権の国に変革し、・・・・国の役割を、外交・防衛・財政・金融・資源・エネルギー・環境等に限定し、生活に密着したことは権限・財源・人材を基礎的自治体に委譲する、のだと言う。
このあたりまでは従来の民主党の主張の中で言われてきたことで、国民の多くが支持している内容だろう。わたしも基本的に鳩山氏の主張に賛成する(ただし私は郵政民営化については小泉首相を支持した)。
しかし鳩山氏がこの特別寄稿の中の最後で述べた外交政策「ナショナリズムを抑える東アジア共同体」構想には、私も驚いた。
一言で言って東アジアに「友愛」のもとに「EUと同じような東アジア共同体を作り上げよう」と言うことで、鳩山氏の意識下ではカレルギーと鳩山氏は時代を越えた同志と言うことになる。
鳩山氏はまず「アジア通貨統合の実現」を目指し、「その背景となる東アジア地域での恒久的な安全保障の枠組みを創出する努力」が必要だと言う。
日米安保条約に代わり、東アジアでEUのユーロと同様の通貨同盟を実現し、その担保として「東アジア集団安保体制」の確立が必要だと言っているようだ。
この主張は確かに戦後の50年間の日米安保条約体制に対する挑戦に写る。
なにしろ鳩山氏は次期首相だ。
「鳩山は反米主義者で、日米安保条約を破棄しようとしているのか」アメリカの共和党系の議員やシンクタンクが色めきたった。
さらに昨日(9日)調印された3党連立の合意文書がダメ押しになりそうだ。
「緊密で対等な日米同盟をつくる。日米地位協定の改定を提起し、米軍再編や在日米軍のあり方も見直しの方向で臨む」と合意文書は言う。
通常対等な同盟とはアメリカがアフガニスタンで戦争を始めれば、直ちに日本もアフガニスタンで戦闘を開始することだが、いままでの民主党の主張からはその反対の主張しか聞かれない。
したがってこの部分は単なる枕詞で、本音は「日米地位協定の改定を提起し、米軍再編や在日米軍のあり方も見直しの方向で臨む」ということのはずだ。
この合意文書を読めば、「やはり鳩山は反米主義者で中国よりの人物」と写るだろう。
しかも、鳩山氏の「東アジア集団安保体制」は日本の強さの同盟でなく、弱さの同盟であることに特色がある。
「中国は軍事的にも経済的にも東アジアの覇権国家だ。ここに対抗するには韓国や台湾やフィリッピン等と共同で中国に立ち向かわなくてはならない。そのための集団安保だ」
さて、この鳩山氏の外交はうまくいくだろうか。アメリカとの同盟より中国との同盟の方が国家の安全保障になると言えるだろうか。
日本人の一般的な感度は「中国よりはアメリカのほうがましだ」と言うものだから、鳩山氏の東アジア共通通貨も集団安保もおいそれとは日の目を見ることはなさそうだ。
正直言って今回の鳩山氏の論文を読んでみて、民主党の外交戦略(小沢氏の国連中心主義から鳩山氏の東アジア集団安保)についてはゆれが大きすぎて、本気で何を求めているのか分からない。
夢と現実との区別がつかないと言う感じだ。
結局首相就任後、現実の世界情勢と向き合いながら、中庸の「友愛」の精神で外交戦略を試行錯誤せざるを得ないというのが実際だろう。
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