(21.8.7) 日本は何処まで特殊か? 貯蓄率急落現象
(マッスル氏撮影 山崎 編集)
Voice8月号の「巻頭の言葉」に掲載された「貯蓄率急落の先にある悲劇」伊藤元重(NIRA理事長、東京大学教授)の論評を読んで考え込んでしまった。
そこにはおおよそ以下のような内容が記載されていた。
① 日本の家計部門の貯蓄率が急速に低下しており、1990年の始めに15%あった家計部門の貯蓄率が3%に低下している。
② 低下の主要な原因は高齢者の割合が増え、貯蓄を切り崩して生活する人が増えたことをあげている(なお私はこれと同じくらい重要な要因として若い人が貯蓄ができないほど生活が厳しいことがあるのではないかと考えている)
③ 金額で見ると約1400兆円の個人金融資産の約70%が、60歳以上の人が保有しているが、今後は増加する要因はない(私の場合はほとんど預金がないので1400兆円に貢献していない)。
④ 日本政府は国と地方を合わせてGDPの約150%の債務を負っているが、1400兆円の相当部分が、公債の購入に当てられている。
⑤ 財政赤字は大胆な歳出拡大が必要なため、ますます公債の依存が増える。
⑥ 公債発行が増加すると通常は長期金利の急騰(国債価格の暴落)か悪性インフレが発生するはずだが、そうならないのは家計部門の貯蓄がこの公債購入に向かっているためである。
⑦ しかし今後個人資産が増加しない(低下する)と、この公債を誰が購入するかという問題が発生する。
⑧そうなると(通常は日銀が引き受けることになり、これは紙幣の増発と同じだから)、長期金利の上昇か、悪性インフレか、円の暴落が起こる可能性がある。
(マッスル氏撮影 山崎 編集)
この論説の主題は、日本は特殊な国であり、従来国民が貯蓄を低金利の銀行預金として運用してきたので(それ以外の運用については一部の人を除いて消極的だった)、政府は金融機関に低金利の公債を押し付けることができ、国債をファイナンスできた。
しかし今後はそうは行かないだろう、ということである。
日本国債のムーディーズの評価は上から3番目のAa2だが、この理由は日本の国債残高は約800兆円でGDPの約1.7倍(アメリカは約0.6倍)であることにあった。こうした日本国債の低評価が海外では一般的だが、日本政府は噛み付いた。
「ボツアナレベルとは信じがたい」
実際は、日本は特殊な国であり、日本人の多くが銀行預金という低金利に甘んじ、国債を購入してきたことは事実だ。
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%95%E3%82%A1%E3%82%A4%E3%83%AB:National_Debt_of_Japan.svg
通常は国がこのように借金を重ねると長期金利が上昇するのだが、(国民が国債をファイナンスしてくれるので)まったくそうはならず、1.5%前後で低位安定している(アメリカ国債の利回りは3~4%)。
これほど国に尽くす健気な国民は世界中を見回しても日本人くらいだ。
結局日本の国債残高が圧倒的に多いのにもかかわらず、利回りが低いのは政策金利を0.10%と低く抑え、定期金利10年物でも0.6%前後に抑えているからだ。
このため1.5%の国債でも金融機関は利益があがる仕組みになっており、政府の実質的な割当(形式的には割当は廃止された)に応じることができる。
(マッスル氏撮影 山崎 編集)
さて問題は伊藤元重氏が心配している今後についてである。若者は貯蓄ができず、老人は貯蓄を取り崩す。国債を購入する資金はなくなり、アメリカのように海外に販路を求めるか、日銀に引き受けさせることになるのだろうか。
私の予想は、長期的には国債の金利は上昇して、政府の財政圧迫要因になると思う。したがってそうした場合は、政府は消費税をあげて財源を確保するか、あるいは再び小さな政府を標榜することになると思う。
結局特殊要因がなくなれば、一般要因で経済は動くのだから、貯蓄なき日本は何処の国もとる政策をとらざる得なくなるのだろう。
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