(21.8.3) ロドリゴ巡礼日誌 その16
キリスト暦2009年7月4日
今まで正確に記さなかったため、一部の方に誤解を与えておりますが、実は私ロドリゴはこの巡礼の旅の目的地、サン・ジェン・ピエル・ポーまで行く予定ではありませんでした。
目的地まで行くのはムッシュ タムで、私はそのサポートを依頼されたのでございます。
「ロドリゴ、私一人ではかみさんが巡礼の旅を許してくれない。一緒に行ってくれないか」
「全部で5週間ですか、少しながすぎるなあ、半分程度だったら何とかしましょう」
私は引退の身で確かに時間は自由なのですが、それでも毎日の修行である清掃活動やブログの作成を長期間中止することができず、とても5週間は難しそうでございました。
結局私は3週間の予定で、ムッシュ タムが一人で巡礼の旅ができるまでサポートする約束をしたのでございます。
ムッシュ タムと別れる予定の場所はこの巡礼の中間地点カオールか、さらに数日間行ったモアサックを予定しておりました。
そこからパリに向けて国鉄の路線があったからで、他の場所からはパリに行く手段がほとんどなかったからでございます。
すでに巡礼の旅を始めて2週間たち、宿泊の仕方やルートの見分け方等巡礼のノウハウは十分身につけておりましたし、ネット2週間で中間地点カオールまで到着させるという目標も達成していましたので、私の役割は終えようとしていました。
ムッシュ タムとしてはカオールではなく、モアサックまで付き合って欲しい気持ちがあるようでしたが、私としてはこのあたりで別れるのが適切でないかと思っておりました。
一番の理由は旅のスタイルが私とムッシュ タムとの間でひどく異なっており、歩く速度や食事の仕方でしばしば精神的葛藤を繰り返していたことでございます。
ムッシュ タムは、日中2時間程度の休息を取りながら、レストランで十分食事をし、時速3km程度のスピードを維持していけば、必ずサン・ジェン・ピエル・ポーまでいける自信を持っておりました。
「昼間の暑い時間帯に2時間程度休めば、必ず30kmは歩ける」が口癖でございましたし、事実その通りだと私にも分かっておりました。
それでも私はカオールではなく、モアサックまで付き合うか否か逡巡していたのでございます。
カオールの町についてすてきなレストランを見つけたムッシュ タムがいつものように「このレストランで食事をしよう」と私を誘いました。
ムッシュ タムはサラダとハムアンドエッグ、私はパイを注文したのでございますが、ムッシュ タムは「ロドリゴのパイと私のサラダとどちらが美味しいのかな」と至福の顔をして私に尋ねました。
その時私の胃には猛烈な胃酸が噴出しており、主にお祈りをしていたのでございます。
「主よ、このフランス国からレストランというものを一掃してくだされば、このロドリゴの命を捧げます」
正直言ってこれ以上レストランに付き合うのは、食事嫌いの私にとって煉獄の苦しみ以外の何者でもなかったのでございます。
そしてこの苦しみから逃れる唯一の方法は、ここカオールでムッシュ タムと別れることだと強く決心いたしました。
この日は15km程度の行程でしたので、昼前にはカオールに着き、ムッシュ タムと遊覧船に乗ったりして、最後の旅の思い出を同伴いたしました。
こうしてカオールでムッシュ タムと別れることになったのですが、カオールからパリまではバスで行きたいと思いました。バスの旅が始めてであり、また国鉄とは異なった景色を見ることができるのではないかと思ったからでございます。
明日の切符を入手しようとして、教えられていたカオール駅のバスステーションに行ったのですが切符売場がありませんでしたので、国鉄の切符売場に行ってバスの切符は何処で入手できるか聞くことにしました。というのもそのバスはフランス国鉄が運営していたからでございます。
しかしこの切符売場の女性は私が何を聞いても、「ノン」としか言わないのです。
エゲレス語が分からないから「ノン」なのか、ここはバス売場でないから「ノン」なのかさっぱり分からないのです。
私はバスの時刻表を見せて、ジェスチャーでこの時間のバスの切符が欲しいと懇願したのですが、女性が何かを言い、私がよく分からないままに「ウイ」といった途端に、翌日のパリ行きの電車の切符を発売されてしまいました。
おそらく会話は以下のようなものだったのではないかと後で想像いたしました。
「あんた、ここは国鉄の切符売場でバスの売場じゃないのよ」
「バスでパリに行きたいのです」
「分からない人ね、バスじゃないと言ったでしょ、ここは電車。電車の切符なら売ってあげるわよ、それでいい」
「ウイ」
「じゃあ、これ明日の12時、バスと同じ頃の出発時間よ。分かった」
「ウイ」
分けも分からずに「ウイ」と言って、信じられないような結論になってしまいましたが、バスであろうが電車であろうが、とりあえずパリまでいけることが分かったので、了承することにいたしました。
そしてまだ帰国までは1週間の余裕がありましたので、かつて一度行ったことのあるパリの街を散策し、ルーブル美術館で主を称える絵画を見ることにしたのでございます。
それでも心には一抹の不安がよぎっておりました。
「主よ、ロドリゴは間違っているのでしょうか。レストランの食事の悪夢から逃れられるために、ムッシュ タムと別れることは、主の御心にかなっているのでしょうか」
ムッシュ タムはその日も遅くまでカオールの街の散策をして、目いっぱいの食糧を入手してジットに帰って参りました。
「ロドリゴは明日はルーブルか、気楽でいいよな」と言っておりましたが、明日からの一人旅がムッシュ タムの気持ちを不安にしているようでした。
しかしそれでもここで別れることを了承してくれたのでございます。
こうしてジャポンを出てから16日目で、私のサンチャゴ巡礼フランス道の旅が終わったのでございます。
写真を掲載します。
http://picasaweb.google.co.jp/yamazakijirou/niKxLI?authkey=Gv1sRgCK2uqMSEn5yMAQ#
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コメント
ロドリゴ様、『サンチャゴ巡礼フランス道750㎞の旅』中間地点カオールまでのお勤め、お疲れ様でした。
『食は文化』のムッシュ タムさんと『食は単なるエネルギー補給』のロドリゴ様。違いすぎるお二人が南フランスの美しい自然、乾いた空気、おとぎ話の絵本のような夢みる風景の中を旅する。舞台は限りなくロマンチックなのに、ロドリゴ様は段々苦渋に満ちて等々『胃酸』がジュンと出てしまう。今回16話のカオールでの別れの決断はほぼ目的を達成されているとは知らず突然のような気がしましたが、献身的なサポートにも限界がありますね。
失礼ながら読み手としては、お二人のやりとりが面白可笑しく、楽しませていただきました。初日のパリでは空港に一泊。翌朝早くドーベルマンに追い立てられ、TGVのチケット購入にちょっと戸惑い、乗り換え駅を間違える波乱の幕開けでしたね。
しかしスタートしてからの健脚ぶりはさすがですし、健康管理もかかさない。それ故にムッシュ タムさんとのズレが生じていく様子。長旅の難しさを感じます。
(山崎)お便り、ありがとうございます。巡礼日誌を書いていて、果たして読み手側としてはどのように読んでいただいているのか分からず、困惑していました。
あんこさんの、コメントをいただいて少し安心しました。ありがとうございます。
投稿: あんこ | 2009年8月 6日 (木) 08時45分