« (21.8.23) 陸ガメ カメゴンとの日々 | トップページ | (21.8.25) 韓国経済の光と影 »

(21.8.24) オバマ大統領の不思議な戦争

20725_110
 オバマ大統領がはじめたアフガニスタンの戦争ほど不思議な戦争はない。
オバマ大統領はイラクの戦闘部隊を2010年の夏の終わりまですべて引き上げると宣言し、一方でアフガニスタンのアメリカ軍を現在の3万人規模から6万人増やして9万人にし、本格的な戦争をするのだという(年末までに6万8000人規模にし、さらに来年2万程度の増派を予定している)。

 現在のイラク派遣軍が約13万人だから、この措置はイラクの戦争の代わりにアフガンで同規模の戦争を行うと言っているのに等しい。

 今までのオバマ大統領のイメージは核兵器の廃絶をうたったり、イラクからの撤退を表明していたので、すっかり平和主義者だと思っていたが、どうやら違うらしい。
もっともオバマ大統領にすれば「われわれはテロリストだけを相手にする。アフガニスタンで戦う相手はテロリストだ。アフガニスタンの国民はわれわれの敵ではない」のだそうだから戦争とは思っていないのかもしれない。

 この言葉はかつてケネディ大統領が「われわれの敵はベトコンで南ベトナムの国民ではない」といっていたのに酷似していると日高義樹氏が指摘している。

 一番分からないのは、「なぜアフガンか?」ということである。イラクで散々苦労し、「もう中東問題に首を突っ込むのはよそう」というならそれはそれなりに理解できる。
しかし「イラクはシーア派とスンニ派の争いで泥沼状態なので、こちらは手を抜いてアフガンに集中しよう」という戦略はなんとも奇妙だ。

 中国戦線が泥沼になったので、乾坤一擲アメリカと戦争を開始した旧日本軍や、イギリスの空爆で大失敗をし、急遽ロシア戦線を開始したナチスドイツのようなものだ。

 イラクは石油埋蔵量でサウジアラビアに匹敵することが分かっているので、ブッシュがイラクにこだわった理由は分かる。アメリカにとり石油の支配こそはアメリカの覇権維持のキーで、サウジアラビアとイラクがアメリカ資本の元に押さえ込まれれば確かにアメリカの1000年王国は可能かもしれない。

 しかしアフガンにはアルカイダのようなテロ組織しかいない。しかもテロ組織は何もアフガンだけでなく、パキスタンにもイランにもアフリカの紛争国にもどこにでもいる。アメリカ軍が現在戦闘をおこなっているイラクなどもテロ組織の巣窟だ。

 だからイラクに派遣していた精鋭部隊を引き抜いて、アフガンに派遣する理由は何なのかさっぱり分からない

20725_116_3

 一方アフガンはイラク以上に難しい場所だ。この点について日高義樹氏が「オバマ外交で沈没する日本」という書物の中で、かつて一度も外国勢力がアフガンを支配に成功したことはなかったという事例を挙げていた。

① 紀元前4世紀、アレキサンダー大王は精鋭部隊10万人でインド国境のカイバル峠まで進駐したが、アフガン人の抵抗にあい補給路を立たれて孤立して退却した。

② 1839年、イギリス軍は一時アフガンを占領したが、1842年にはアフガン人の大々的な抵抗にあい、撤退をしようとした1万6500名のイギリス軍とインド軍が全滅させられた。

③ 1979年、ソビエト軍がアフガンに侵攻したが1988年、ゴルバチョフが12万人の遠征部隊を引き上げた。この戦争で1万5千人のソビエト兵士が死亡し、その後ソビエト連邦は崩壊した。

 日高義樹氏の結論として「オバマ大統領はアフガニスタンで『アルカイダだけを敵として戦う』と自信たっぷりに宣言したが、このままいけばアフガニスタンはアメリカにとって第二のベトナムになる」と見ている。

 オバマ大統領の心を読むのは実に難しい。本当の平和主義者であれば、ブッシュが始めた戦争はすべて止めて、イラクからもアフガニスタンからも撤退すべきなのだが、テロとの戦いだけは継続するという。

 しかしもう一度言うがテロリストは何もアフガニスタンにいるだけではなく、隣国のパキスタンやイランにもわんさかといる。現在アメリカ軍が懸命に治安維持を図っているイラクもそうだ。
まさかこうしたすべての国とも戦闘を開くとオバマ大統領は決心しているのだろうか。

 日高義樹氏はブッシュ嫌いのオバマが何でもブッシュのしたことをすべてチェンジしようとしているのだと分析する。
ブッシュは「主戦場はイラクで、アフガンは片手間」で戦争をしてきた。
だから何でも反対のオバマは「アフガンが主戦場で、イラクは片手間にするのではないか」と疑っている。

 しかしアメリカ人もどうやらオバマの戦争に懐疑的になってきており、世論調査では「アフガンで戦う価値なし」が51%と過半数を越えてきた。
また「大統領は国のために正しい決定をしているか」という問いに49%が賛意を示したが、これはしばらく前の60%から大幅に落ち込んでいる。
オバマ大統領の指導性に黄信号がともり始めている。

 正直言って私にはオバマの戦争はよく分からない。かつてのアメリカは戦略的国家であり、必ず戦略に基づいた行動をしていたのでブッシュの石油戦争はよく理解できた。
しかし今ではオバマ大統領の気まぐれによって、戦争を止めたり始めたりする国家になってしまった。

 アメリカはなぜ戦略性を捨ててしまったのだろうか?

 

 

|

« (21.8.23) 陸ガメ カメゴンとの日々 | トップページ | (21.8.25) 韓国経済の光と影 »

評論 世界 アメリカ政治」カテゴリの記事

コメント

この記事へのコメントは終了しました。