(21.8.18) 世界経済の底入れと中国経済のバブル
ここにきて世界経済が底入れしたのではないかと思われる指標が相次いで発表されている。
本日(17日)発表された日本経済について言えば、09年4~6月期のGDPの伸び率が、対前期比年率3.7%(前期▲11.7%)の増加に転じた。5期ぶりの増加なのだから底入れといっていい。
特に輸出(対中国向け)と個人消費、公共投資の寄与率が大きい。
09年4~6四半期については、日本だけでなくアメリカは▲1%(前期▲6.4%)、ユーロ圏は▲0.1%(前期▲2.5%)、中国は前年同期比+7.9%(中国の統計だけは常に前年同期比対比で出される。なぜ前期比対比で出せないか経済学者はいぶかっている)だから、世界経済は回復に向かっていると言えそうだ。
なかでも中国経済の健闘が光っており、ゴールドマン・サックスなどはさっそく09年度の中国のGDP伸び率は前年比9.4%(従来は7.9%)になると予測を修正した(8月10日)。
中国の株価の上昇も著しく最低時の倍にまで上昇し、最近は証券会社を中心に中国株への投資勧誘の言葉が踊っている。一頃低迷していた不動産価格も上昇に転じて北京では住宅価格が年初来30%も上昇したという。
「すわ中国経済の復活は本物だ、中国投資こそ日本の生きる道だ」
ふたたび中国シフトが始まった。
しかしこうした中国株式や不動産の上昇については景気回復というよりも無理な金融緩和によるバブルとの分析が、三橋貴明氏によってされており、その論文「中国経済・偽りのV字回復」がVoice9月号に掲載された。
三橋氏の主張は「ありあまった資金が株式と不動産市場に流れおり、早晩中国人民銀行が引き締めに転じると、07年11月の引き締めと同様に急激な株安と不動産価格の低落が始まる」というものである。
具体的には以下のように論旨が展開される(一部意訳して掲載しているので、別途三橋氏の全文を記載しておく)。
① 中国人民銀行は2008年9月以降5回にわたる利下げと、融資目標の設定による資金供給に乗り出した。
② このため人民元融資増加額は08年対比、09年度上期で1.5倍の101兆円(通年換算では3倍の約300兆円になる)の大幅な伸びになっている(アメリカの量的緩和枠は170兆円。イギリスは28兆円規模)
③ しかしこの資金の流れを見ると、銀行は安全な大企業融資に絞り、本来の目的である資金が枯渇している中小企業融資に向かっていない(日本も同じだった)
④ 資金を押し付けられた大企業は、もともと設備投資の意欲が低くいので、一部設備投資に振り向けたものの残りは株式投資と不動産投資で運用している(このため株価の上昇と不動産価格の上昇が起こっている)。
⑤ 一方政府は国債を発行して4兆元(約55兆円)の公共投資を向こう2年間で実施することにしており、公共投資は拡大している(これが日本の輸出増と結びついている)。
この資金は国債を発行して市場から調達するが、最近市場が加熱して公債の発行が思うに任せなくなってきた(09年7月、中国財務省が実施した200億元の国債入札が2週間で3度目の札割れになった。これは金融機関にとって公債よりももっと収益があがる株式や不動産案件が増えてきたため)。
⑥ このため中国人民銀行は融資を抑制して国債消化を図るか(公共投資を拡大するか)、このまま融資拡大路線をとって株式と不動産のバブルを放置するかの選択にせまられているが、07年11月の教訓から早めの引き締めに転ずるだろう。
⑦ 中国人民銀行が引き締めに転ずればバブルは一気に崩壊し、株式と不動産価格は暴落し、中国は深刻な経済不況にふたたび落ち込む。
全文は以下のURLをクリックしてください。
http://news.goo.ne.jp/article/php/world/php-20090808-01.html
さて三橋氏の論文と、ゴールドマン・サックスのような中国経済へのもろ手を挙げた期待とどちらが正しいのだろうか。
ポイントは中国人民銀行が「資金が中小企業の設備投資に回らず、もっぱら大企業による株式投資と不動産投資に回っている」ことをどのように判断するかにある。
① 株式でも不動産でもGDP押し上げ効果があるならそれでいい。
② アメリカや西欧でおこった不動産を中心とするバブル崩壊が中国で発生するのを事前に防ぐ。
三橋氏は「中国人民銀行は、きわめて近い将来に金融引き締めに転じざる得ない。そして人民銀行が政策を転換した場合、中国の現在のバブルは100%に近い確立で、一気に崩壊することになるのだ」と述べている。
私の予想は「中国人民銀行はかなり長い期間バブルを放置し、株式と不動産のバブルをふくらまし続ける」というもので、そうしないと中国政府の公約である8%成長が確保できないことと、景気がいいときにバブルを潰すことはグリーンスパンでさえできなかった事例があるからだ
「政府の顔を立てよう。成長しているなら株式でも不動産でもいいじゃないか」
中国の株式は07年10月のピーク時から中国人民銀行の引き締めで08年10月のボトムまで、軒並み7割程度暴落した。今回も三橋氏の言うとおり暴落は間違いないとしても、アメリカと同様バブルを膨らませるだけふくらました後、大崩壊が起こるというのが私の予想だ。
注1)中国のバブル崩壊のパターンは1990年前後の日本のバブル崩壊と酷似する可能性が高い。理由は主として大企業が株式、不動産投資を行っていることと、資金を金融機関が無制限に貸し出しているところが日本と同じだからだ。
アメリカ型にならない理由は中国は消費者金融がアメリカのように発達しておらず、また国内市場の開放が十分進んでいないので、中国国内だけの閉じられたバブルで収まるため。
注2)なお、中国政府の国債発行が不調に終わったのは金利設定が低いからで、今後国債発行金利を上げて資金を市場から調達せざる得ない。
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