(21.5.11) アメリカのストレステストは大本営発表
7日、米財務省とFRBは、金融大手19社に対する特別検査(ストレステスト)の結果を発表した。
それによると、10社が資本不足に陥る可能性があり、その額は746億ドル(約7兆5千億円)であるが、すでにアメリカ政府が投入した公的資金(バンカメ 450億ドル、シティ 450億ドル、ウェルス・ファーゴ 250億ドル等)で十分であり、アメリカ政府の優先株を普通株に転換するだけでいいと言うのだ(ただし各金融機関は普通株の公募も行なうと発表した)。
市場は一応に歓迎して株価は上昇し、格付会社(S&P)はバンカメとシティの格下げを今回は行なわないと発表した。
いわばアメリカ中お祭りムードで「これで金融危機は収束した」といっているようなものだが、今回の発表はオバマ政権の政治的配慮の報告で、実態を反映したものではない。
そもそもストレステストの方法が問題で、日本の金融庁が01年に行なった金融検査とは大いに異なる。日本の場合は個別取引先ごとの一件審査で、そのときの検査は厳格を極めた。
不動産関連企業などはそれだけで査定対象になり、担当者が「この企業はバブルの中でもしっかりしていた企業なのに、こんな査定をされては融資もできない」と嘆いていたくらいだ。
一方アメリカが今回行なったストレステストはマクロ経済指標を使った数学的手法なのだが、何よりもその前提条件が問題と言える。
今回の前提条件は、09年度米国の実質成長率▲3.3%、失業率8.9%と言うのだが、これは第一四半期の実質成長率▲6.1%より楽観的で、4月の失業率8.9%とまったく同じ数字になっている。
これでは経済は第一4四半期が底でその後急回復し、失業者はこれ以上増えないと言っているのと同じだが、本当だろうか。
つねにFRBの予想は楽観的過ぎるところがあり、たとえば2月19日にFRBが09年度のGDP予測を発表したが、それは▲1.3%だった。その舌の根の乾かないうちに第一四半期▲6.1%になったのだから思わず笑ってしまった。
しかし政策担当者の発表と言うものはこうしたもので、日本でも大本営発表は嘘ばかりだったが、「日本軍はいたるところで敗退しており、勝つ見込みはまったく無い」などといったら、誰も戦わなくなるのだから、ある程度致し方ない面もある。
しかしこの発表を真に受けて「アメリカの経済は底を打った」とはしゃぐのも問題で、「アメリカ政府はこれ以上の公的資金の投入ができないので、現状で大丈夫だと政治的発表をした」と判断するのが適切だろう。
今はアメリカ政府の発表で一時的に楽観ムードが出ているが、実態は隠しようが無いので、今後発表される統計数字を見て再び悲観ムードが漂うことになるだろう。
今までも政府の強気な発表の都度、市場は一時的に好感し、その後正気に戻ることの繰り返しだった。
近い将来、オバマ政権はストレステストの結果が甘かったことを認めて、金融機関に対するさらなる公的資金の追加に追い込まれると思っておくほうが妥当だと思う。
(22.7.11追加)
アメリカ政府はその後、低金利資金を金融機関に大量に貸し込むことで、公的資金の追加投入をしないで済んでいる。
金融機関はその低利の資金をヘッジファンド等に融資することで業容は急回復した。
いわば、バブルを新たなバブルでおおい隠す戦略だが、これは次のバブル崩壊までの単なるユーフォリアにすぎない。
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コメント
西行の和歌「願わくば---」が添えられていたので、重篤?。いや、ブログを書き換える元気があるなら大丈夫なんでしょう?。ご近所に風邪から急性肺炎で他界した人や、テニスプレー中、突然死した人がいます。どちらも男厄(62)です。この年頃は行動に慎重さが求められます。お大事に。
金融ストレス(健全性審査)検査は、やはり前提が甘く、FRBや為政者に都合の良い数字に仕上がりましたね!。投資家に安心感を与え、金融株の買いを誘い込む意図が透けて見えます。昨日の日高レポートで、エリック・カンターの言「公的資金の投入だけでは景気はよくならない」、金融機関も同じですよ。中国の温家宝首相は「国が経済の命脈をコントロールし続ける」と言って、金融機関の貸し出しを大幅に拡大しています。米も強制力をもって対処して欲しいですね!。
(山崎) 体調は峠を越えました。今日から清掃活動を再開しましたが、すっかり疲れて寝ていたところです。
投稿: G爺 | 2009年5月11日 (月) 10時45分