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(21.5.1) 黄昏の橋 弱者連合のゆくえ

200pxshinseibank_head_office1_3    毎日新聞の26日朝刊に「新生銀行とあおぞら銀行が来年夏をめどとした経営統合の交渉に入った」との記事が掲載された。
両行はいづれも1998年に経営破綻し、一時国有化されたあと、米系投資ファンドに売却されその傘下で再生を図ってきた銀行である。

 新生銀行はかつて長期信用銀行と言われ、またあおぞら銀行債券信用銀行と言われて、いづれも日本を代表する金融機関だった。
私が社会人になった昭和45年ごろは、特に長期信用銀行の評判は高く、私も長銀にあこがれた一人である。

 しかしそのビジネスモデルが日本の大企業に対する長期資金主として設備資金)の供給だったため、大企業が自己資本を潤沢に蓄え、金融機関からの融資が必要なくなると、融資先が先細りになってしまった。1980年代のことである。

 そのためバブル期には主として不動産事業に資金供給をシフトして、不動産融資ビジネスモデルにしたが、バブル崩壊と共に1998年、自らも破綻したのは承知のとおりだ。

 その後は米系ファンドの元で再生を図ることになったが、そのビジネスモデル米系金融機関のそれであり、主として証券化商品購入とそのディーリングだった。
実は日本にはそうした戦略で高収益をあげていた金融機関があった。
農林中金である。

 かつて農林中金長銀日債銀と同様に割引債利付債で資金調達を図る債券発行銀行ただし農林中金は農協資金の調達もあった)だったが、国内に融資先が少なかったこともあり、早くから米国債券を中心とする投資銀行に特化していた。

 このビジネスモデルがアメリカの金融機関と同様、金融恐慌が発生するまでの高収益構造を支えたため、新生銀行あおぞら銀行もこのビジネスモデルを採用することにしたのである。
農林中金を見習え。証券化商品に投資しろ

 あおぞら銀行などは農林中金の元専務能見氏を社長に据えたほどの熱の入れ方だった。
しかしこの戦略は、世界的な金融バブルの崩壊でまったく裏目に出てしまった。

 09年3月期の決算は新生銀行▲1430億円あおぞら銀行▲1960億円の最終損失になり、しかも損失補填のための増資もままならない。倒産の過去を持つ2行には、農林中金メガバンクのように増資を引き受けてくれる先が無いからである。

まずい、このままでは再び倒産してしまう。公的資金の再投入しか手がない」ここに来て金融庁が動き出した。
しかし、金融庁としても2行の面倒を見るのはきつい。そもそも収益のビジネスモデルが描けず、今後とも展望が持てない2行を公的資金で支え続けることは難しい。
しかもこの2行からはまだ返済を受けていない公的資金4000億円があり、政治問題化しやすい。

なんとか、2行を統合し、経営規模を縮小することによって安楽死できないものだろうか金融庁の本音である。

 だが、この2行の筆頭株主はいづれも米系投資ファンドで、海千山千の相手だ。おいそれとは金融庁の戦略に乗ってくれない。
投資ファンドが損失を受けない統合しか容認できない
抵抗は厳しく、金融庁の大盤振る舞い以外に統合は難しそうだ。

 
 思えば大企業への長期資金の供給と言う役割が終わり、そもそも存在理由が無くなってからの2行の迷走は悲しいほどだ。

 一度目は日本の不動産融資に特化して失敗し、今度はアメリカの不動産投資(形式は証券化商品の購入)に特化して再び失敗してしまった。
次なるビジネスモデルはもはや存在しない。

 2行が統合しても、客観的にはメリットが無いのだが、過去、新生銀行だけでも約8兆円公的資金を投入してきた経緯がある。
金融庁としてはいまさら後に引けないから、しばらくは公的資金の投入で生かし続けざるえないだろう。

 しかしいつまでも黄昏の橋をわたり続けることはできそうもない。

 

 

 

 

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