(21.4.3) 米仏経済戦争が始まった
4月1日、2日とロンドンで開催されていたG20はほとんど米仏経済戦争の様相を呈してきた。
サルコジ仏大統領はアメリカが世界にばら撒いた金融派生商品の害毒に完全に頭に来ており、ドイツのメルケル首相と図って、G20の会議を「国際的な金融規制を導入する会議」にしようとした。
一方オバマ大統領は「金融規制」より「景気刺激策」だとイギリスのブラウン首相と組んで「IMF基準のGNP対比2%の財政出動」を各国に約束させようとした。
現在G20の米仏経済戦争の主戦場は「ヘッジファンドに自己資本規制を設けるか否か」になっており、サルコジ大統領とメルケル首相はこの規制に同意が得られなければ「退席も辞さない」構えだった。
なぜヘッジファンドの自己資本規制が主戦場かと言うと、これこそが、景気が回復した後の世界の経済覇権を握るキーポイントになるからだ。
アメリカはヘッジファンドの自己資本規制には大反対で、せいぜいFRBに登録させればいいと考えている。
商業銀行はFRBの管理下にあり、すでにBIS規制で自己資本の13倍という網をかぶせられている(BIS規制の下では商業銀行は自己資本の約13倍までしか資産『融資や金融派生商品』を保有できない。これをレバレッジが13倍だという)。
投資銀行はすべてつぶれて商業銀行になってしまったので、これもBIS規制の対象になる。
(なおレバレッジの規模は商業銀行は13倍、投資銀行は約30倍、ヘッジファンドは約100倍と言われていた)
唯一残ったのがヘッジファンドで、BIS規制の対象にすると景気が回復した後、レバレッジを効かした強欲な金儲けが一切できなくなってしまう。
「アメリカが世界を支配する最後の手段がヘッジファンドだ。これが規制されたらアメリカの金融資本主義は終わる」オバマ大統領の認識だ。
ヘッジファンドとは実に不可思議な存在で、金持ちの個人や財団の金を集めて、金融派生商品や石油や穀物やその他あらゆる金儲けの商品に投資をしている私的組織といっていい。
本部はケイマン諸島やリヒテンシュタイン公国のような租税回避地にあることが多く、出資者は主として大学の財団(ハーバード、慶応、駒沢等)やカリフォルニア退職教員組合や前日銀総裁(村上ファンドに投資していた)のような実に立派な個人や財団である。
サルコジにしてみればこのヘッジファンドを野放しにしていると、景気回復後に再び強欲金融資本が復活するのが見え見えだから、絶対に許容するわけにはいかない。
「二度と金融バブルを発生させないために、この機会にアメリカの牙を完全に抜いてしまおう」メルケルと誓い合っている。
こうしたすったもんだの挙句に出されたG20の首脳宣言は、結局は玉虫色の宣言にならざる得なかった。
アメリカが求めていたGNP対比2%の財政出動については「08年から10年までの3年間で総額5兆ドルの財政出動をする」と言うことになったが、もちろん各国別の内訳は明示されていない。
「みんなでがんばって5兆ドルにしよう」と言うことだ
またフランスが求めていたヘッジファンドやタックスヘイブンの規制については金融安定化ボード(FSB)を設置することにしたが、この規制の具体的内容にはふれていない。
これも「みんなでがんばって規制しよう」と言うことのようだ。
こうしてG20でのアメリカとフランスの経済覇権をめぐる熾烈な戦いは痛み分けで終わった。
しかし、この経済戦争は第一ラウンドが終わったばかりで、21世紀の経済覇権争いはさらに継続するはずだ。
| 固定リンク
「評論 世界経済 金融恐慌」カテゴリの記事
- (22.1.12) 投機マネーと農産物価格の高騰(2010.01.12)
- (22.1.8) NHK新春討論 マネーの奔流はどこに向かうか その2 謝国忠(2010.01.08)
- (22.1.7) NHK新春討論 マネーの奔流はどこに向かうか その1(2010.01.07)
- (21.12.27) NHKスペシャル マネー資本主義 集大成版 その2(2009.12.27)
- (21.12.26) NHKスペシャル マネー資本主義 集大成版 その1(2009.12.26)
この記事へのコメントは終了しました。
コメント