(21.3.17) 国家資本主義の時代 あるいは資本主義の最後の形態
信じられないような激変が続いている。日本においては太平洋戦争の敗北で戦前と戦後に大きな断層が有るが、それに匹敵するような激変が世界的規模で起こっている。
つい最近までは市場万能主義の時代で、市場主義の戦士達が億単位の給与を得てこの世の春を謳歌し、フリードマンや竹中平蔵氏の言葉が福音のように響き、小泉改革が抵抗勢力を一掃していたのが夢のような昔に感じる。
今では麻生首相が「郵政民営化に反対だった」と公言し、竹中平蔵氏は金融恐慌の戦犯扱いにされ、小泉元首相は「もうこれ以上何もしゃべらない」と静かに引退しようとしている。
アメリカでは市場万能主義のエースだった投資銀行がまたたくまに消え去り、メリルリンチの上級職員が倒産前のドサクサにまぎれて高額のボーナスをネコババしたことがばれ、法廷に引き出されそうだ。
オバマ大統領は「恥ずべきこと」と怒りを新たにしており、アメリカ国民は投資銀行が単なる強欲集団だったことに気がついた。
ヘッジファンドはすっかり元気がなくなり、フランスやドイツはヘッジファンドの規制(登録制度だけではなく普通銀行と同様な自己資金規制)がなければ、アメリカが求めているGDP対比2%の財政出動に協力しないと反旗を翻した。
「アメリカの時代は終わったのだ。何が市場万能だ。お前のおかげで経済秩序がめちゃくちゃになったではないか」アメリカに対する嫌悪感が世界に充満し始めた。
中国も「まじめな経済運営をしなければアメリカ国債を購入しない」といちゃもんをつけ始め、今やガイトナー財務長官の言うことをきいているのは与謝野馨大臣だけになってしまった。
その市場万能主義に代わって登場してきたのが、何とも不思議な国家資本主義とでも呼べそうな代物だ。
各国は次々に金融機関や主要産業を公的資金の導入と引き換えに国家管理に移行させ始めた。
かつては「政府のやることは全て非効率だ」と言われていたのに、今や政府なくして資本主義が立ち居かなくなっている。
「国家が最後のアンカーです。どうかお金をめぐんでください」GMの会長の弁だ。
日本では金融機能強化法による資本注入を地方銀行3行に強引に実施し、貸し渋りに対する金融検査を強化すると金融庁が言う。
「何でもいいから企業に融資しろ」
竹中氏全盛時代は不良債権のあぶり出しに熱心で、「不況業種に対する融資など金融機関の風上にも置けない」と言われていたが、天と地がひっくり返った。
イギリスではロイズとRBSと言う2大銀行が株式の過半数以上を国家が保有して事実上の国家管理になってしまった。
アメリカでもシティグループはほとんど国家管理のようなものだし、自動車産業も政府の資金なしに操業できない。
プーチンのロシアはもっとドラスチックだ。
石油とガスはすべて資本家から取り上げて国家管理にしてしまったし、いままで独立していた主要産業も倒産しそうになったので、公的資金を導入してその見返りに人事権を取り上げてしまった。
中国はもともと国家資本主義国で、この金融恐恐の嵐の中で相対的にまともなのは、時代を先行して国家資本主義になっていたからだと言う皮肉な結果になっている。
世界の主要な金融機関や自動車産業のような主要産業が政府の管理下におかれ、政府の支援なしに経営ができない状態を国家資本主義となずけておこう(これは私がとりあえず命名した)。
もっともアメリカを始め各国ともこれは一時的な措置であり、経営環境が好転すれば再び民間に経営権を委譲するつもりだ。
「1年間、各国が財政出動すれば、また元の元気な市場が回復する」
しかし本当に一時かどうかが問題だ。
大和総研は「今年、来年ともこの不況が継続し回復はその後」といい、一方FRBは「来年には回復する」との見通しをのべている。
しかし私の見方は違う。こうした状況は今後10年単位で継続すると思っている。
いわゆる金融資本の高度成長の時代は終わり、それに代わる金儲け産業は存在しない。あるのは地味な産業資本だけで、これでは日本の失われた10年の後のなだらかな成長のように、精々1%程度の成長率が限度だろう。
世界は規制だらけになり、国家の支援でかろうじて生き延びる資本主義は本当は資本主義の最後の形態かもしれない。
1990年前後に社会主義経済が崩壊し、その20年後に金融資本を中心とする強欲資本主義が崩壊した。その後は国家管理された静かな資本主義が表れそうなのだが、これがほぼ10年単位で継続するというのが私の見方だ。
(なお、写真はアダム・スミスです)
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