(21.3.13) イギリス政府の損失補償制度 自由な市場の終わり
イギリスではとうとう政府が2大金融機関の損失補償をすることで、この金融危機を乗り切ることにした(イギリスには巨大銀行が4つあるがそのうちの二つ)。
ロイズ・バンキング・グループに2600億ポンド(約36兆円)、ロイヤル・バンク・オブ・スコットランド(RBS)に3250億ポンド(約46兆円)、合計で約82兆円で、これはイギリスの国家予算にほぼ匹敵する。
代わりにイギリス政府はこの二つの銀行の株式を取得し、実質的に国有化してしまった(日本でも長銀と日債銀を国有化した)。
現在各国が実施している倒産間際の金融機関救済策は3種類有って、① 公的資金の投入、② 損失補償制度の導入、③ バッド・バンクの設立(不良資産の買取制度)である。
公的資金の投入は最も効果的だが、赤字が確定しないと何時までたっても追加の公的資金を投入し続けなくてはならない。
政府も国民もイライラして最後は悲鳴をあげる。
そこで赤字を確定させることで不良債権を切り離そうとするのが、バッド・バンク(不良資産の買取制度)の設立だが、これは金融機関が極端に嫌がる。
理由は一時的に巨額の損失が発生するのと、将来値上がりするかもしれない株式等を二束三文で売り払わなければならないからである。
日本でもバブル崩壊後の不良債権処理のために債権買取機構が設立されたが、私が関係した債権買取機構の買取価格は債権額の3%程度だった。
そこで考え出されたのが、損失補償制度でこれは損失が将来実際に出た金額だけ保証弁済すればよいことになる。
経済情勢が好転すれば保証金額は少なくなり、反対に悪化すれば最大1年分の国家予算が必要になる。
実際問題として1年分の国家予算を金融機関の救済に使用することなどできないのだが、そう宣言することで市場に対する安心感を与えることはできる。
「そうか、イギリス政府が保証してくれているのか」
しかしことはそれほど簡単ではない。イギリスには保証弁済する金もなく、また借入もままならないからだ。
かつてはイギリス国債はプレミアム国債といわれ、ポンド高と高利回りでアラブの石油成金等が競って購入していた。英国債の外国人比率は約3割で、日本のようにほぼ100%国内で消費されていたのとは違う。
この状況がバブル崩壊後一転してしまった。
ポンドは下落に継ぐ下落で、ひところ250円だったポンドは現在では140円になり、また5%を越えていた政策金利もとうとう0.5%になってしまった。
低利回りで、将来下落が予想されるイギリス国債を外国人が買うはずはないし、バブルに浮かれて消費拡大に走ったイギリス国民も債券を購入する余裕などない。
「イギリス国債はくずだ」これほど評価が下がった国債も珍しい(ただしアメリカの格付け会社はイギリス国債の評価を高く維持して、間接的にイギリスを支えている)。
いままでイギリス経済は慢性的に経常収支は赤字だったが、それに見合海外からの投資があり、それでバランスをとっていた。
しかし投資資金が途切れてはなすすべがない。
残された道は英イングランド銀行がポンドを印刷することぐらいだが、これは経済が収縮している時は完全にインフレ要因になり、さらにポンドの価値を低下させる。
ビッグバンによって世界で最も自由な金融市場を創設し、わが世の春を謳歌していたが、今では4大銀行のうち、2つを国有化して最も不自由な市場になろうとしている。
これではイギリス経済はサッチャー以前に戻ってしまう。
かつてイギリスは1976年に財政破綻しIMFに救済を求めた。
経済が好転しなければ、本当にイギリス政府は損失補償を求められる。しかしそのようなことは実際は不可能なのだから、あの財政破綻の悪夢が再びイギリス経済に襲ってきそうな雰囲気になってきた。
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