(21.3.12) 正直者 漆間官房副長官の大失言
思わず笑ってしまった。漆間(うるま)官房副長官の正直さかげんにである。
記者団の「バランスを考えたら自民党の方も捜査をやるとの見方がある(のではないか)」というひっかけ質問に見事に引っかかった。
これは記者団との定例の懇談でオフレコ(メモも録音もしない)だったせいもあるが「自民党の方は金額が違いますからね。この件で自民党の方までやることはないと思いますよ」とうっかり答えてしまった。
記者はちゃっかりメモを取っていたし、オフレコなのにもかかわらず一斉に報道されてしまったので(日本ではオフレコがオフレコになったためしがない)、漆間官房副長官の立場がなくなった。
漆間氏は元警察庁長官から官僚の中の最高位に上り詰めた人である。民主党から「ほれ見ろ、検察と内閣はぐるになって小沢代表を追い詰めている」と詰め寄られたのであわてて、参院予算委員会で釈明をせざる得なくなった。
漆間氏はあくまで一般論として述べたもので、主旨は以下の通りだと懸命に釈明した。
① この種の事件では違法性の認識を立証することが難しいこと
② 金額の多寡が違法性の認識を立証する大きな要素であること
③ 検察が逮捕したのなら起訴に持ち込めるだけの証拠を持っているのだろうこと
これは実に不思議な説明だ。これによると違法性は金額の多寡で決定され、従って小沢氏の秘書は逮捕されるが、二階氏の秘書は逮捕されないと言っているようだ。
しかし、今回の違法献金容疑はあくまで「西松建設の献金(企業献金)だと言うことを知りながら、政治団体からの献金と偽って個人の資金管理団体に入金したことが違法」とされているはずで、金額の多寡は犯罪の成立要件にならないはずだ。
ところが漆間氏は「金額の多寡が逮捕者と非逮捕者の分水嶺になる」という。一般の人には理解できないことが漆間氏は分かっていたらしい。
なぜだろうか?
実は検察庁のトップ検事総長は内閣が任命する認証官(天皇の認証が必要)で法務大臣の指揮命令を受ける立場にある。
もっとも通常は法務大臣が指揮権を発動することはないが、政府の高官や今回のように野党党首が相手の場合は、検事総長は官邸サイドとの事前すりあわせを行なう。
もし内閣が異をとなえて指揮権の発動をされては、検察庁の立場がなくなるからだ。
過去に1回、この指揮権が発動された事例がある。1954年のいわゆる造船疑獄で時の法務大臣犬養健が、時の自由党幹事長佐藤栄作の逮捕請求を無期限停止した。
おかげで佐藤氏は獄につながれることがなくなり、その後日本の総理大臣になっている。
今回の小沢氏の第一秘書逮捕に当たっても、当然官邸サイドと検察庁との間のすりあわせが行なわれたはずだ。そのときに問題になったのはこの問題が小沢氏だけに止まるのか、自民党の二階氏他にも及ぶのかという問題だったはずだ。
そこで検察と官邸サイドとの密約がなされて、自民党議員は「金額が僅少で」「違法性の認識を立証すること困難」なので、たとえ捜査対象になっても逮捕はされないと手を握ったはずだ。
「よし、小沢の秘書を逮捕しろ。これで民主党はばらばらになる」
自民党としては天から降ってきたような僥倖だ。
「このネガティブキャンペーンは絶対に成功する」と麻生首相はにんまりとしたろう。
それを正直者の漆間官房副長官が記者に乗せられ、極秘情報をぽろっとしゃべってしまった。「自民党議員の逮捕はないだろう。なにしろ金額が少ないからだ」
せっかく自民党に神風が吹いたのに、この一言で全てがおじゃんになり検察も立場上二階氏周辺を洗わざる得なくなった。
政治はまことに一寸先が闇だ。相変わらず自民党は舌禍でせっかくのチャンスすら物にできない状態が続いている。
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