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(21.3.11) 文学入門 その6  むのたけじ 93歳・ジャーナリストの発言

S11401  今回の読書会のテーマ本は「むのたけじ」氏の「戦争絶滅へ、人間復活へ」という岩波新書で、副題が「93歳。ジャーナリストの発言」となっている。

 この本を選んだのは、自ら私設の図書館を開催していた I さんだが、私はいつものように「むのたけじ」氏もこの本も知らなかった。
この本はジャーナリストの黒岩比佐子さんが聞き手になり「むのたけじ」氏が口述したものを編集して上梓したとのことで、元々が会話なのでとても読みやすい。

 黒岩さんが「むのたけじ」氏の経歴を紹介しているが、戦前・戦争中は従軍記者として活躍し、終戦の8月15日に自らの戦争責任を取って朝日新聞社を退社した人だと言う。
その後、秋田県横手市で週間新聞たいまつ』を創刊して、1978年まで発行を続けていたという。
その後は講演活動や執筆活動を続けているらしい。

 この本は「むのたけじ」氏が生きた半生の証言であるが、ジャーナリストとして戦前・戦後から現在まで生きている人は少なく、貴重な証言になっている。
黒岩さんがこのような証言をどうしても残しておきたかった気持ちは良く分かる。

第1章ジャーナリストへの道」は「19歳で社会主義者の自覚」を持ったむの氏の青年期であるが、戦前の感受性豊かな青年の多くが社会主義に目覚めていった経緯が語られる。

第2章従軍記者としての戦争体験」では、現実主義的な物の見方の側面が強く出ている。
戦争と言うものは一旦始まると互いに殺戮と暴虐の限りを尽くし、兵隊のすることは女を犯し、敵の死体を切り刻み、略奪をほしいままにするのが実態だと言う認識だ。
どこの男も、戦場では同じような残虐なことをやっているんです」という。
この認識がむの氏の戦争に対する原点のようだ。

第3章敗戦前後」でむの氏は言う。「これまでの反戦平和運動で、戦争を食い止めるのに成功したものはない。・・・どこの国でも必ず押し切られてしまった。それはなぜか。・・・・戦争をなくすには、戦争をする必要をなくして、戦争をやれない仕組みを作らなければだめです

むの氏の戦争に対する基本的認識は「戦争は一旦起これば戦争の論理に従う」と言うもので、このあたりは現実と向き合ったジャーナリストの経験からきている。
人が人をなぜ平気で殺せるのだろうか」などと安易にいわないところがいい。

第4章憲法9条と日本人」は戦後を長く生き、社会主義・共産主義の挫折を見、文化大革命の失敗を見た人間の、理想主義と現実主義のせめぎあいに悩むむの氏の弁明だ。

その新憲法について、私は最近になって気付いたことがあります。・・・・憲法第9条とは何か。あれは、いわば軍国日本に対する”死刑宣告”です。・・・言い換えれば国家ではないと言う宣告です。・・・・ところが一方で、人類が生きつづけていくためには、戦争を放棄したあの9条の道を選択する以外に道はないといえる
現行憲法の二重性についての認識は、単に「憲法9条を守れ」と言っている人たちよりは深い。

第5章核兵器のない世界へ」でむの氏は氏の処方箋を説く。国がある限り戦争はなくならない。そのためには国家をなくし「人類連合」を作る。EUがその一つの例だ。
そうして個々人が自覚を持って立ち上がることが必要だ、と言う。

 ただし私の感度としてはヨーロッパは過去何回も統一された経緯(古代ローマ帝国、神聖ローマ帝国、ハプスブルグ家の支配や、最近のNATO、ワルシャワ条約機構等)があり、現在のEU統合はそうした伝統の下に再結合しているとも言えそうだ。

第6章絶望の中に希望がある」ではむの氏が見た希望が紹介される。

 それは元気な女性であったり、小説家志望の高校生であったり、講演会を成功させた中学生で有ったりする。
むの氏によればそうした女性や若者達が、従来の規範や束縛にとらわれず生きようとしており、その人たちが戦争のない社会を築くのだと言う。

 しかし、ここまで読んで本当にこうした人たちが戦争放棄9条の子供達になるのか疑問に思った。確かにむの氏の周りにはむの氏の話を聞く女性や若者がいるだろうが、それは現在日本の女性や若者のほんの一部にすぎない。

 はっきり言えばむの氏の話を聞こうという人々は、むの氏の信奉者であっても、数の上でもまた実力的にも現在日本の変革を指導できるような人たちではない。

 だからむの氏の「絶望の中の期待」はたんなる期待に終わってしまうのではないかというのがこの本の読後感だった。


なお、今回の読書会の主催者、河村義人さんが私とはまったく異なる視点でレポートしている。下記のURLをクリックするとレポートの全文を読むことができるので、是非読み比べられることを勧める。
http://yamazakijirou1.cocolog-nifty.com/shiryou/2009/03/21310-c847.html

また今回の読書会の結果報告は河村さんがまとめられました。以下のURLをクリックすると読むことができます。
http://yamazakijirou1.cocolog-nifty.com/shiryou/2009/03/213117-ede8.html

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