(21.2.10) 世界の投資家はなぜディリバティブにだまされたのか (世界金融恐慌の原因)
おそらく21世紀最大の謎の1つが「世界の投資家はなぜディリバティブにだまされたか」ということだと思う。
これは通常の精神の持ち主なら到底信じられないような話を、世界中の投資家が信じてしまったということで特出に値する謎といえる。
考えても見てほしい。日本の定期預金が1%未満で、日本国債10年物が1~2%、アメリカ国債10年物が3~4%の時に、絶対安全確実でしかも高利回り6~10%の金融商品などあるはずがない。
絶対安全確実とは日本国債やアメリカ国債に対してつけられた言葉だが、安全なら当然低利回りだ。
ところが安全確実でかつ高利回りという相矛盾する言葉を二つも並べた金融商品が現れたのだから世界は驚いた。
「そんなものがはたして存在するものだろうか」
全ては金融工学というマジックを使って作り出された金融商品だったが、一見しただけではまったく問題の所在が分からない。
なにしろムーディーズやS&Pと言った格付け会社が最高級の格付けをつけて保証している商品なのだからケチのつけようがない。
「信じられないが存在しているのだから確かだろう」まるでマルチ商法に引っかかった顧客のようなものだ。
しかし今になってみると一つの実現性のない前提条件のもとに設計されていた事が分かる。
それは「不動産価格は未来永劫に上昇する。少なくともアメリカでは」という前提条件である。
すでに不動産バブルを経験してきた日本人にとっては、そうした前提がありえないことを知っていたが、アメリカでは未来永劫上がると、全員で信じるふりをした。
住宅ローンで住宅を購入した消費者も、貸し付けた金融機関も、それを格付けした格付け会社もそして何よりアメリカ政府も信じるふりをした。
そうとでも考えない限りこの謎は解けない。
サブプライムローンに火がついた日時を特定するのはかなり難しいのだが、一般的には07年8月フランスのBNPバリバ銀行が傘下の3つのファンドの解約を凍結した時から始まるといわれている。
バリバショックといわれるこの事件は当初は何が起こっていたのか一般にはまったく理解されなかったが、実はサブプライムローンを含んだ証券が転売できなくなっていたのだ。
住宅価格が低下し始め、次々にデフォルトが発生したからだ。
それまで世界各地でこのサブプライムローンを含んだ証券化商品は引っ張りだこだった。日本ではCDO(後述する)といわれたこの証券を慶応大学や駒沢大学等の学校法人が競って購入していた。
ゴールドマン・サックス、モルガン・スタンレー、リーマン・ブラザーズの美しくかつ知的な女性がこの商品を学校法人、宗教法人、医療法人等のお金持ちの団体に大体次のように言って販売していた。
「このCDOは安全確実で、しかも高利回りです。日本の国債運用でもせいぜい2%が限界ですが、この商品は6~10%の高利回りであり、かつムーディーズやS&Pが最高の格付けをしております。
ハーバード大学ではこうした資産運用により年間20%程度のリターンを得ており、アメリカ大学の資産運用の平均は15%~20%と言われています。失礼ながら貴方の大学の利回りはせいぜい2%程度ではないでしょうか」
この言葉に乗せられてCDOを購入した慶応大学が225億円、駒沢大学が154億円の損失を出したことは記憶に新しい。アメリカの大学では数兆円規模の損失を出しているといわれている。
このCDOという金融商品こそは、金融工学で厚化粧したとんでもない代物だった。
CDOとは住宅ローンや国債や社債やその他のありとあらゆる証券を集めてごちゃまぜにした証券と思えばいい(下図参照)。
この中にはアメリカ国債のように信用力抜群のものからサブプライムローン関連証券(MBSと言う)のようなジャンク債まで含まれるのだが、金融工学はここで信じられないようなマジックをやってのけた。
財務理論では「価格変動の上下の変動幅(ボラティリティと呼んでいる)が小さければ小さいほどリスクは少ないとする。そしてリスクが少なければ少ないほど格付けは高くなる」
この理論によれば異なったリスク商品をパッケージすれば、同時に悪い方向に動くことはなく、そのため価格変動は抑えられてリスクが低減されるという。だから格付けは高くなる。
確かに計算上ではそうなのだが、そのときCODの設計者はサブプライムローンのデフォルトリスクを非常に小さいものとして計算することにした。
上司「君、考えても見たまえ。住宅の価格は毎年上昇している。こんな時にローンが支払えなくなるなんて事はあると思うかね。ただし計算だけはしっかりとやってくれたまえ」
部下「そのとおりですね。アメリカ国債もサブプライムローンも安全確実です。その前提で誰にも理解できない飛び切り難解な計算式を使って計算しましょう」
アメリカにとって幸いなことに住宅価格は右肩上がりに上がり続け、06年の半ばまでは実際にデフォルト率は低かった。だからこれが未来永劫に続くと前提したのだ。
こうしてCDOにふくまれるほとんどの証券は安全確実になってしまい、CDOは安全確実で、高利回り商品になってしまった。
この程度のマジックで世界中の投資家がだまされたのだから、信じられないような現象だが実際に起こったことである。
IMFによると、サブプライムローン関連の金融機関の損失はすでに200兆円にのぼっていると推計されている。
金融工学とはリスクをそっと隠すイチジクの葉だったが、実際にイチジクの葉が落ちるまではそこに何が隠されているか、世界中が知らなかったのだから、やはり21世紀最大の謎の1つと言えそうだ。
(世界連鎖恐慌の犯人 堀紘一著 P75)
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