(21.1.21) 経済予測の信憑性 EU欧州委員会の誠実さ
各国が発表する経済予測、特にGDPの予測ほど信憑性の低いものはない。
たとえば日本では1月19日に閣議決定として09年度のGDP成長率を0%としたが、内訳をみると設備投資▲4.2%、消費が+0.4%、住宅投資が+4.7%だと言う。
設備投資はともかく住宅投資が+4.7%と言うのには驚いた。新設住宅着工戸数は昨年の11月から急減速しており、年率で100万戸を割り95.4万戸になっている。
この数字は改正建築基準法の影響で着工が押し下げられた07年を除けば、信じられないような低水準であり、当然09年度もこうした推移が続くと見るのが当然だ。
国交省は「経済全体の減速で当面、厳しい状況が続く」と発表したばかりだが、政府は国交省の予測とは無関係に+4.7%の成長を見込むという。
成長率が低いと税収が減少し、赤字国債が膨らむので、住宅投資をプラスにして無理やりつじつまあわせをしたのだが、国交省の予測官の顔は丸つぶれだ。
だが政府の予測数字と言うものはほとんどがこうしたものだ。
中国では中国の科学の殿堂といわれる中国科学院が09年の中国GDPの成長率を8.3%だと予測した。これは中国政府の予測8%にあわせただけの数字で、「科学の殿堂」が泣きそうだ。
国連は09年年の世界のGDPは+1.0%、世界銀行は+0.9%だとしているが、これは各国の政府の顔をたてた数字に過ぎない。
「まったく、どこもかしこもいい加減な数字を発表して・・・・」あきれ返っていたら、EUの欧州委員会が実に誠実な数字を発表した。
この数字は各国の政府関連機関が発表した数字の中で、政治的配慮を度外視して現状の経済状況を直視した初めての数字と言っていい。
1月19日、欧州委員会は09年度ユーロ圏16カ国のGDPは▲1.9%になると発表した。
ようやく「100年に1度の経済危機」にふさわしい数字といえる。
内訳はドイツが▲2.3%、フランスが▲1.8%、イタリアが▲2.0%、ユーロ圏ではないがイギリスが▲2.8%になっている。
日本人はどうしてもアメリカばかり見ているが、実はヨーロッパの経済状況はアメリカと同様に非常に悪い。アメリカより悪いとの見方もあり、それがドル対比ユーロの低下を招いている。
① 住宅投資にのめり込み、サブプライムローンのような証券化商品をたっぷり仕込んだイギリス経済やスペイン経済、
② 輸出主導型経済で特に東欧諸国を主要な市場としていたが、東欧諸国の経済停滞で大失速したドイツ経済、
③ しばらく前まで新興国経済を謳歌していたが、欧米の投資銀行やヘッジファンドの資金が激減してIMFの支援でかろうじて命脈を保っている東欧諸国、これがヨーロッパの実情だ。
欧州委員会はこの実情を正しく認めて、特にイギリスとドイツのGDPが大幅に減速することを初めて予測した。
「欧州委員会の委員は任務を遂行するにあたって、出身国政府の意向にいささかも左右されてはならず、EUの利益のためだけに行動する」ことを義務づけられているが、今回はそのことがプラスに働いたようだ。
私は欧州委員会が発表した▲1.9%はまだ甘いと考えているが、それでもこの欧州委員会の態度には好感が持てた。政治的配慮を越えて経済実態を正しく認識した予測がされたからだ。
欧州委員会がタブー(GDP予測には必ず政治的配慮を加える)を破ってくれたおかげで、今後はこうした正しい数字の発表が増えるだろう。
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