(20.12.9) 原油価格はさらに低下しそうだ
今年の7月に1バーレル147ドルにまで上昇した原油先物相場は、あれよあれよと言う間に40ドルまで低下してしまった。実に半年で下落率は7割に達している。
7月時点では年末には200ドルの大台に乗ると予想されていたが、リーマン・ブラザーズの倒産で金融危機が発生し、一気に坂道を転がり始めた。
今は一体どこまで原油価格が低下したら止まるのか世界中が注目している。
長らく30ドル前後だった原油価格が急上昇始めたのは2004年の始め頃からだが、それまで世界全体で年1%台だった石油消費量の伸び率がこの頃から年2%~3%に急上昇した。この間先進国の石油消費量はほぼ横ばいだったから、もっぱら中国等の新興国の需要が増えたことによる。
一方原油価格は03年から08年の間に30ドルから一気に147ドルまで約5倍も上昇したが、消費量の伸びはたった10%程度だった。
本来ならばありえないような価格上昇だが、投機資金による仮需が発生したからである。
しかしリーマン・ブラザーズの倒産以降金融が一気に引き締まり、投機資金が撤退した結果仮需がすっかり剥がれ落ちてしまった。
そのおかげで原油価格の動向はもっぱら実需の動向を見ればよいことになったので非常に分かりやすくなってきた。
石油需給の見通しで最も権威があるとされる国際エネルギー機関(IEA)の最も最近の見通しでは「2013年まで日米欧の石油消費は一貫して減り続け、一方中国、中南米、中東などの新興国は消費量が拡大する。09年については先進国は▲1.7%、一方新興国は増加するので全体では0.3%の増加になる」という。
IAEは自身の7月の見通しを下方修正したのだが、09年度が0.3%増になると言ったのには驚いてしまった。
08年の見込みが0.1%増に止まるのに、09年は僅かとはいえ08年より好転すると言うのだ。
08年は少なくとも8月までは石油価格が上昇の一途をたどると見て、多くの国で石油確保に血なまこになっていたのは記憶に新しい。
中国が世界の石油を買い占めていると言って大騒ぎしていたではないか。
一方09年は世界的不況で先進国の経済は前年割れすることが確実と予測されている。それなのに08年対比、石油の需要は拡大すると言うのだ。
「そんな、馬鹿な。一体どこの国が石油を使うんだ」
直近の08年7~9月期の石油消費量の数字を見ると、先進国の落ち込みが▲3.8%(4~6期▲2.1%)、新興国が+4.4%(4~6期 +4.5%)だ。
先進国の石油消費量は期を追って悪化しているが、新興国の数字はあまり変っていない。
先進国について言えば直近の数字が▲3.8%なのに経済がさらに悪化する09年が▲1.7%ですむはずがない。
この数字を見ただけでもIAEの予測の甘さが分かる。
さらにこうした甘い見通しをささえる理由は、新興国、特に中国の経済が堅調で他国の需要減をカバーしてくれると予想しているからだ。
先進国の経済がどんなに不調でも、中国が石油をがぶ飲みしてくれると言う。はたして本当だろうか。
中国はここ数年石油需要をほぼGDPの拡大の歩調に合わせて拡大してきた。08年のGDP成長率見込みは約10%、09年のGDP成長率は中国政府の見通しで9.3%、世界銀行の見通しで7.5%である。
ところが最新の資料では08年10月までの工業GDP成長率は8.2%で季節調整後で対前年比▲4%だと、中国中央工作会議で発表された。
中国の経済成長も急速に悪化している。
結局09年の石油の需要はIAEの予測より先進国は落ち込みが拡大し、中国にも期待できない。
買う人がいないのだから、結局原油価格は40ドルを割ってさらに低下し、バブル発生前の30ドル程度まで落ち込むと思わなくてはならないだろう。
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