(20.11.9) アメリカが時価会計を諦めた (金融恐慌対応)
(注) 本件の記事を作成した後、G翁さんからコメントをいただき、当時長銀の有価証券の評価法は低価法を採用していたので、下記に記載したように時価会計の問題ではないのではないかとの指摘を受けました。
確認したところ、確かにG翁さんの指摘が正しいので、長銀や日債銀の問題を、本件と関連付けるのは適切でないと判断しました。
したがって不適切な部分は抹消しましたが、抹消前の原文を確認したい方は以下のURLをクリックすると見ることが出来ます。
http://yamazakijirou1.cocolog-nifty.com/shiryou/
世の中でこれほどひどい話はめったにない。アメリカのSEC(証券取引委員会)が時価会計を一部停止しようとする話である。
私のように長い間金融機関に勤めていた者は、かつてアメリカが日本に時価会計を採用させるため、すさまじい恫喝をしたことを覚えている。
「日本の金融機関は取得原価(上場国債は低価法)を採用しており、不動産および株式に多大な含み損が発生しているのにそれを隠蔽している。これでは世界の金融市場に参加する資格がない。透明性の欠如だ。
ニューヨークやロンドンで市場に参加したいのであれば、時価会計にあらため、格付会社の格付けを取得してから参加しろ。
それまでは村八分だ」90年代後半のバブル崩壊後のことだ。
やむなく日本の金融業界が時価会計を採用したのは98年3期からだったが、ほとんどアメリカからてごめにされたようなものだ。
「アメリカには逆らえない。時価会計を採用してくれ」金融庁のお達しがあった。
その後日本の金融機関は歯を食いしばって耐えてきた。
「時価会計こそは世界の潮流だ。なにしろアメリカの金融機関はこの時価会計のおかげで投資家に適切な情報を提供して信頼を得ている。我々もアメリカの金融機関のようにならなければならない」実にけなげだった。
ところがアメリカではサブプライムローンでアメリカの金融機関がバッタバッタと倒産し始めるとSECは掌を返したように、時価会計の一部凍結を検討すると言う。
「金融市場の信用収縮で取引が成立しにくくなっている証券化商品に対する時価会計の適用を一時凍結する」
なんてことはない、サブプライム商品は取得原価でいいと言っているわけだ。
こんなご都合主義が通っていいのだろうか。
「透明性の原則が不透明じゃないか」皮肉の一つも言いたくなる。
そして今その同じSECが「サブプライム商品はなぜか取得原価の価値がある。なぜならSECが価値ありと言っているからだ」と言う。
「会計基準の世界標準なんて信じるほうが馬鹿だ。すべてアメリカの都合によってどのようにも変るのだ」これがアメリカの本音らしい。
考えてみれば会計基準は取得原価であろうと時価会計で有ろうと、それ自体は中立的なものであり、どちらかが選りすぐれていると大声で主張するほどの差はない。
大事なことは一方の原則を採用したら、継続してその原則を採用していくことのほうが大事で、その時の経済状況で両者を使い分けるほうがおかしい。
余りにもばかばかしく、90年代の終わりから2000年の初めにかけて吹き荒れた時価会計の嵐は一体なんだったのだろうかと、しみじみ思ってしまった。
(注)写真は近くの調節池の朝霧の写真です。
| 固定リンク
「評論 世界 アメリカ経済」カテゴリの記事
- (22.1.24) オバマ大統領と強欲資本主義との戦い 「真昼の決闘」(2010.01.24)
- (21.9.3) アメリカ商業用不動産価格の暴落と金融危機の第2段階(2009.09.03)
- (21.8.1) 米中同盟は腐れ縁(2009.08.01)
- (21.5.29) GMの破算とCDSの爆発(2009.05.29)
- (21.5.11) アメリカのストレステストは大本営発表(2009.05.11)
この記事へのコメントは終了しました。
コメント
タイトル『アメリカが時価会計を諦めた』は、憤激(義憤?)のレポートですね!。
時価会計は、今やグローバルスタンダードになっており、評価基準として確立しています。
今回は世界金融危機にあたって、適用を一部緩和して減損処理を先送りしただけでしょう?。
例えば、金融商品で「投資目的」のものから「長期保有(満期)」への区分を変更し、取得原価での評価を認めようとしているのでは?。
この場合なら、ゴーイングコンサーンから許されるのでは?。ただ、期間比較上、継続性の原則からは問題ですよね!。ご都合主義で恣意的に変更してはいけません。
もし基準緩和がなければ、金融機関の自己資本比率の8%(?)割れが多数出て、「貸し渋り」「貸し剥がし」等で、実体経済に影響必死でしょう。また、金融庁からの資本注入も多くなるでしょう。
長銀や日債銀は時価会計の犠牲?とありましたが、当時、低価法を適用していて、時価評価よりは減損処理で厳しい結果となってしまったのでは?。いかに?。
(山崎)長銀問題については、私の誤解が有りました。誤解と判断された箇所は修正を行なっております。なお比較のために修正前の原文も見られるようにしてあります。ご指摘ありがとうございました。
投稿: G爺 | 2008年11月 9日 (日) 18時05分
アメリカこそがルールだ。と、相変わらず思い込んでいるのでしょう。
無邪気なものです。
あの国に、閉鎖系の論理を教えねばなりませんね。
しかし、国柄が変わるには長い時間が必要でしょう。
歴史が無い国は、本当に恐ろしいと思います。
(山崎)いつもコメントをしてくださり、感謝しています。時価会計については日本がだまされたと言う思いが強く、この記事を書きました。
投稿: yokuya | 2008年11月 9日 (日) 11時24分