(20.11.26) 元厚生事務次官殺傷事件の闇
本当にこれほど摩訶不可思議な殺傷事件があっていいものだろうか。
元厚生事務次官の山口さん夫妻が殺害され、おなじく元厚生事務次官の吉原さんの奥さんが重症を負わされた事件のことである。
当初メディアでは「年金問題に不満を持った犯人像」が喧伝され、だれしもそう信じて疑わなかったが、警視庁に出頭してきた小泉容疑者は「30年以上も前に保健所にペットを殺された恨み」だと言う。
「本当だろうか」誰でも信じられない思いのはずだ。
もしそれが真実だとしても元厚生事務次官を襲う理由にはならない。なにしろ相手は保健所なのだから保健所の責任者を襲ったならそれなりに理由は分かるが、年金問題のスペシャリストとペットの処理とは無関係だ。
いまメディアでは小泉容疑者の生い立ちや住んでいたアパート住民とのトラブルを盛んに伝えている。
過去についてはさほど際立った特色があるわけでない。佐賀大学理工学部に入学しているのだから、それなりに知力も学力があったはずだ。その後中退しているが、昨今は中退者の数も多いので不思議でもない。
中退後、コンピュータソフト会社への就職は最も一般的な職業選びだし、2,3年で退社するのもこの業界ではよくあることだ。
その後は宅配便のアルバイトをしたり、またソフトウェア会社に再就職していたと言うのだから順風だとはいいがたいが、よくある人生行路の一つと言える。
だから過去の履歴からは小泉容疑者が特別な事件を起こすような人物という像は浮かんでこない。
一方アパートの住人や、隣近所の人達とのトラブルはたえまなく、いわゆるトラブルメーカーだったようで心理的に気持ちがすさんでいたことは分かる。
しかしだからと言って厚生事務次官を襲う理由にはならない。
気持ちがすさみ世の中を憎んだ場合は、過去の事例(秋葉原の事件等)からは無差別殺人事件になる方が普通だ。
小泉容疑者は自首をする時証拠品を持参しているが、おそらく持ってきた刃物やダンボールや靴は実際に殺傷に使用したものだと思う。
しかし「だから俺が犯人だ」と言う小泉容疑者の言葉を素直に信じられない気持ちだ。
なにしろ犯人は指紋を拭いとっていくほど周到なのに、数日後には「自分が犯人だ」とわざわざ警視庁に出頭しているのである。
なら指紋などふき取らずにいたほうが、すぐに犯人逮捕につながるはずなのに・・・・・・。
私はこの事件を見て戦前に有った、あの血盟団事件を思い出した。
1932年、日本が不況のどん底にあった時、前大蔵大臣井上準之助、三井財閥の重鎮団琢磨の両氏が銃弾に倒れたあの事件である。
犯人は小沼正、菱沼五郎という青年だったが、背後に黒幕がいた。
当初マスコミは何が起こったのか分からず右往左往したが、ようやく判明したのは日蓮宗の僧侶、井上日召(にっしょう)が唱える「一人一殺」に共鳴した血盟団メンバー二人の政治テロだと言うことだった。
井上日召は言う。「ただ私利私欲のみに没頭し、国防を軽視し、国利民福を思わない極悪人」約20数名の要人を殺害せよ。
小泉容疑者の犯行声明では「私は魔物一匹と雑魚一匹を殺したが、やつらは今も毎年、何の罪もない50万頭ものペットを殺し続けている」。だから「報復に10名余の厚生省の高級官僚を殺す」と言うのだ。
井上日召と小泉容疑者は約80年の時を隔てて兄弟のように似ている。
80年前の世相は政治家と財閥に対し、国民は深い憤りを持っていた。そして今日は厚生行政に対する不満が渦巻いている。
小泉容疑者の背後にはたして黒幕がいることはないのだろうか。
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