(20.9.13) アメリカ金融危機の第二段階
アメリカの金融危機は第二段階に入ったようだ。日本では住専の倒産が第一段階であり、続いて第二段階として証券会社と金融機関(山一證券、長期信用銀行、日本債券信用銀行、北海道拓殖銀行)が倒産した。
アメリカではファニーメイ、フレディマックという政府系住宅金融会社が事実上倒産し政府の管理下に入ったのが第一段階で、続いてリーマン・ブラザーズの経営危機が発生したのが第二段階だ。
リーマン・ブラザーズはアメリカでは名門中の名門の投資銀行であり、日本でいえば長期信用銀行に匹敵する。
(時期は前後するが20年3月には大手証券会社のベア・スターンズが倒産したが、これは山一證券の倒産に匹敵する)
日本の失われた10年に比較して1年余りで第二段階まで来たのだから、アメリカの時価会計システムの明瞭性は褒めていいが、だからといって危機の度合いが日本より軽いわけではない。
それどころか危機は日本の場合よりはるかに深く、かつ広がりが大きい。
日本では住専処理で親銀行が債権放棄したり、公的資金が投入された金額は合計で約6兆円だった。
さらに長銀や日債銀の損失処理や、大手銀行への公的資金の投入は約50兆円だった(全体で100兆円の損失だったが、そのうち約半分が公的資金、残りは各金融機関が負担した)。
この程度で済んだのは、所詮日本国内の問題だったからであり、融資も直接の不動産融資がほとんどで、証券化商品というようなそれ自体で自己肥大するような商品はなかったからである。
これに比較しアメリカの金融危機は世界的規模で、かつ金融工学(ディリバティブ)という博打で債権残高が膨張に膨張を続け、どこまで大きくなっているのかは誰にも分からないほどだ。
たとえばファニーメイとフレディマックの自行が発行している債券額は170兆円であり、そのほとんどを海外の投資家に販売している。
日本の金融機関では判明しているだけで15兆円の債券を購入しており、従来日本で最も固いといわれていた農林中金が5兆円、三菱UFJが3兆円購入している(政府系住宅金融会社は債券を発行し、その金でアメリカの金融機関からローン債権を購入。それを証券化して世界中に販売している)。
そのほかに540兆円にのぼる住宅ローン証券を保証したり保有しているのだから広がりはどこまで拡大するのかわからない。
「まずい、アメリカが今まで構築してきた金融システムがつぶれる」
アメリカ政府はあわてて公的資金の投入枠を約22兆円設定した。
「なんとしてもファニーメイとフレディマックを守れ」
しかし日本の例のように不動産融資の約70%が焦げ付くとすると、その金額は約380兆円(540×70%)で、これも日本の例のように半額を公的資金でカバーすれば190兆円規模の資金が必要になる。22兆円では焼け石に水だ。
アメリカは金融工学と称して訳の分からない数式を使用して証券化商品を売りまくっていたが、ふたを開けてみれば屑ばかりなことが判明した。
金融工学(ディリバティブ)とはアメリカを舞台とした巨大な賭場での博打で、負ければ裸になるのは今も昔も変わらない。
「なんだい、ディリバティブは屑を集めて、外側だけ体裁を整えた欠陥商品の販売じゃないか」ようやく世界が目覚めた。
そして今金融機関が倒産し始め、危機の第二段階が始まった。
ファニーメイとフレディマックが住宅ローン証券の半額を持っているが、残りは金融機関や証券会社や投資家が持っているからだ。
シティーグループやメリルリンチはなんとか投資家から資金調達できたが、経営状態が悪いと市場で評価されたリーマン・ブラザーズは誰も相手をしてくれない。
株価はたたきう売られて底値が分からない。
バンク・オブ・アメリカが救済するとの噂があるが、長銀の時と同じで経営の実態を知れば手を引くだろう。
これで金融機関の救済もアメリカ政府は視野に入れないとならない段階にきた。
日本の失われた10年を笑っていたが、今アメリカではそれを何倍という規模で拡大して再現しているのだ。
金融工学(ディリバティブ)はただアメリカの金融危機を拡大しただけに終わってしまいそうだ。
(20.9.16追加)リーマンブラザーズは日本時間で15日倒産した。メリルリンチはバンク・オブ・アメリカに吸収されることになった。ポールソン財務長官は「リーマン・ブラザーズに公的資金を投入することは当初から考えていなかった」とコメントを述べた。
アメリカの株価は500ドルあまり下落している。
今後はうわさの出る金融機関はすべて倒産に追い込まれるだろう。ポールソン財務長官は「公的資金の投入はしない」といっているが、どこまで強気でいられるかは時間の問題だ。
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