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(20.8.7) ぼくが生きた時 その3

(シナリオシリーズのその3です。その1からの続きですので、その1、その2を読まれていない方は「その1」、「その2」リンクが張ってあります>からお読みください


○ 運動会(100メートル競争)


  破れて泥のついたステテコで走る次郎。父兄席で次郎を指差し、小声で囁きあっている母親たち。

○ 校庭の杉の木(運動会終了後)

  杉の木の下にアキオと次郎、クラスの子供達が集まっている。

アキオ「次郎は嘘ついたから、この木でセミになれ。罰だ!」
次郎「嘘なんかついてない」
アキオ「嘘、ついたろう。ステテコを白ズボンなんて言ってよ-」

次郎「白ズボンだ」
アキオ「なんだよ-、先生だってステテコだって言ってたじゃねえか。じゃ-先生が嘘ついたっていうんか(勝ちほこったように)」
子供達「(はやす)言ってやろ!言ってやろ!先生のこと嘘つきだって、次郎がいってたって言ってやろ!」

  黙って下をむく次郎

アキオ「蝉になれ、命令だ!」

  杉の木に登り、蝉の真似をする次郎。アカトンボの飛翔。

○ 自宅(冬、朝)

語り
「家計はまったく好転しなかった。むしろジリジリと悪化していった」
  ちゃぶ台には、朝の支度がしていない。不信そうにちゃぶ台をみている兄弟3人。何もいわない父とイネ。母が財布から20円玉をとりだす。

和子「今日はご飯がないから、次郎、これでコッペパンかっといで」
令子「何で、ご飯ないの、ヤダ」

  口をとがらす令子、下を向く次郎。

令子「ヤダ、絶対ヤダ(拗ねる)」

  困惑する父母、イネ。

次郎「いいよ、令子、パン買いにいこう」 

  不満げな令子、ほっとした大人達。

次郎「令子、行くぞ(大きな声で)」
令子「うん(不承不承)」

○ パン屋(同日)

  20円でコッペパンを買う次郎。白い息。霜焼けの手。後ろで、肩を落とし、石を蹴っている令子。

令子「にいちゃん、どうしてご飯じゃないの?」
次郎「令子、コッペパン、きらいなのか?」
令子「そうじゃないけど」

  
令子「ジャムもつけないの?」      
  間

○ 自宅(同日)

  まないたの上にコッペパンを置き、包丁で3等分する次郎。のぞきこむ令子と則夫。少し大きさが揃わない。

令子「にいちゃん、そっちのほうがおおきいよ」

  あわてて、大きさをそろえる次郎。大事そうにコッペパンをたべる子供たち。見てみぬふりをする一郎と和子。後ろでなみだぐんでいるイネ。


○ 藤沢家玄関口(12月、土曜日、午前)

  藤沢家の安手の玄関口。靴がとびちらかしてある。和子が藤沢家に借金にきている。藤沢秀夫(44才)と藤沢テル(42才)が応対にでている。

語り「この頃母は返すあてのない借金の依頼にかけづりまわっていた」

和子「こんなこと、言うのは大変申し訳ありませんが、子供の給食費もまだだしてないんです。藤沢さんもごぞんじのとおり、元はといえば、藤沢さんの依頼もあり、B織物に主人が裏書をしたのが始まりですので500万の一部でもいいですから、返してほしいのです」

秀夫「奥さん、何か勘違いしていませんか。確かにB織物は私の親類です。だけど私が依頼したから裏書したんじゃない。あんたのご主人が欲に目がくらんだからじゃないですか。金を貸して欲しいと素直にいうなら、こっちもまんざら無関係じゃないから、考えんこともない。それがどうですあんた、返してといいましたね。冗談じゃない。借りてもないのに何故、かえさにゃならんのですか。お断りです」

  和子、怒りで目がつり上がる。テルは下を向いている。

和子「藤沢さん、あなた、よくもそんなこといえますね。(つまりながら)私、ききましたよ。B織物と一緒になって、主人に酒のまして、いざとなったら、親類縁者で責任持つといったっちゅじゃないですか。あんた、親戚でしょ、責任とってください( ヒステリックに)」

秀夫「な、なにをいいだすんだ。互いに酒の席じゃないか。あんたの主人が欲張りだからこうなったんだ。いいがかりだ。証拠を見せろ、証拠を! なにもないじゃないか(興奮して)」

和子「しらじらしい。世間にいいふらしてやる。みんな、言ってやる。藤沢は嘘つきで人のいき血を飲む極悪人非人だといいふらしてやる(叫ぶ)」

秀夫「何だ、何だ、人がだまってきいていたら、いいきになって。貧乏が頭にきて気が触れたんじゃないか。帰れ!帰れ!二度とくるな!(大声で)」
和子「だれがくるか! 人非人、人でなし!(ヒステリックに)」

  ドアーを思いっきり強く閉めて出ていく和子。藤沢秀夫は横の壁をあしげりする。テルは下をむいたまま。

○ 和子の回想

 (映像)
  正月。庄屋の屋敷に小作が50名ほど集まっている。床の間を背にした和子の父母。そして女学生の和子。盛大な料理。卑屈に年賀をのべる小作。鷹揚な態度の和子の父,房太郎。昂然ととりすました和子。着物が美しい。

  (映像)
  藤沢家の玄関。借金の申込みをしている和子。断る藤沢秀夫の顔。ドアーをしめて、天を仰ぐ和子

和子「イヤー、イヤー、もうイヤー。死んでやる。死んで化けてやる」

○ 藤沢家玄関口(夕方)

  藤沢哲雄(12)と次郎が遊びながら帰ってき、玄関をあける。

語り「当時、私は藤沢家の長男哲雄とクラスが同じであり、もっとも仲のよい友達だった」

哲雄「今日、次郎ちゃん、オレんちでご飯たべろよ」
次郎「うん、そうする」
哲雄「かあちゃん、今日次郎ちゃん、オレんちで、ご飯たべるって(元気よく)」

  二人が家の中に入ってくる。玄関、食堂 六畳一間の小さな家。安手の家具が置いてある。奥まった6畳間に炬燵。藤沢秀夫が座っている。テルは台所。次郎の顔を見て、藤沢秀夫とテルが顔をみあわせ  る。藤沢秀夫はバツがわるそうに目をそらせ、新聞を見るふりをしながら次郎に背をむける。テルは涙ぐむ。

テル「あっ、次郎ちゃん。よくきたね。今日おばちゃん、美味しいもの、いっぱい作ってあげる。次郎ちゃんの好きな卵焼きにしょうか? おばちゃん、つくってあげる」
秀夫「そう、そうしなさい。それがいい(つまりながら)」

○ 藤沢家(夕食)

  秀夫、テル、哲雄、和夫(哲雄の弟、9才)、そして次郎。そまつなテーブルに それぞれの卵焼き。次郎のが一番大きい。

和夫「ずるいよ。次郎ちゃんのが一番大きいよ」
テル「次郎ちゃんは、身体が一番大きいからこれでいいの」
和夫「だって、次郎ちゃん、家の子じゃないのに・・・」
秀夫「和夫、だまって食べなさい。これでいいんだ(強く)」

  嬉しそうに卵焼きをほうばる次郎。外は星がきらめいている。

○ 自宅(同日,続き)

  次郎が元気よく帰ってくる。家では和子が泣きはらした目をしている。

次郎「ただいまー。かあちゃん、おれ、今日ご飯いらないよ(大声で)」

  和子がききとがめる。

和子「どうして?」
次郎「おれ、今日、哲雄ちゃんちでいっぱいたべたんだ。こんな大きな卵焼きだよ。おばちゃんが特大の卵焼き作ってくれたんだ」

  次郎、手で大きさをしめす。和子は怒りで身体が震える。

和子「次郎、もうあんな家、いっちゃダメ(怒りをおしころして)」
次郎「なんで(怪訝そうに)」
和子「かあさんがダメといったら、ダメなの(ヒステリックに)」

  (次郎、茫然としている)
次郎「だってー、おばちゃんやさしいし、おじちゃんだってやさしかったよ」
和子「馬鹿(右手で次郎の頬をおもいっきりたたく)」

  左頬を押さえ唖然としている次郎。次郎の胸ぐらをつかみゆする和子。

和子「おまえに、かあさんの気持ち、わかってたまるか。かあさん、藤沢で馬鹿にされたんだよ。悔しいよー。もとはと言えば、小作じゃないか。かあさん、もう我慢できない。死んでやる。死んで化けてやる。次郎、おまえも一緒に死にな(泣き叫ぶ)」

次郎「ヤダヨ(和子を強く押し戻す)」

  和子の身体がとび、仰向けにたおれる。興奮する和子。

和子「次郎、おまえ、かあさんに手かけたね。 親に手かけたね。親に手かける子は少年院にいれてやる。こうしてやる(次郎を押し倒おす)」

  下からあしげりする次郎。ふたたび和子の身体がとび、襖に身体をぶつける。台 所に飛んでいく和子。逃げようとする次郎。玄関のガラス戸が閉まっており、すぐに開かない。包丁をもって次郎を追い かける和子。部屋の中で、座蒲団をたてに包丁を避ける次郎。

和子「死んでやる。おまえを殺して、死んでやる(ヒステリックに)」

  イネがハラハラしながらみている。令子と則夫は脅えて隅で震えている。

イネ「和子、馬鹿なことはやめなさい。包丁振り回すのやめなさい」

  イネの存在にきずく和子。イネのほうに向かって包丁を振りかざしながら。

和子「死んでやる、みんな殺して死んでやる(ヒステリックに)」

  和子がイネの方をむいたすきをついて、後ろから和子をはがい締めする次郎。思わず包丁を畳に落とす和子。その包丁を拾って一目散に外に飛び出す次郎。泣き叫びながら、食器をあたりかまわず投げる和子。泣く令子と則夫。二人をかばうイネ。

○ 建てかけの家(同日、真夜中)

  建てかけの一軒家。屋根と床が張られており、壁は一部つくりかけている。夜空が見える。北風。寒さに震えながら、壁に寄り添っている次郎。右手に包丁。自動車のライトが一軒家を照らす。脅えるように壁に身体を押しつける次郎。遠くから次郎を呼ぶ一郎のこえ。だんだんちかづいて来る。

一郎「次郎 、次郎 、いたら答えなさい。次郎 、次郎 」

  一軒家から、おずおずと出てくる次郎、右手に包丁を持っている。

次郎「とうちゃん、ここにいるよ」

  
一郎「次郎、とうちゃんとかえろう」
次郎「ヤダヨ、だって、かあちゃん、また包丁持っておいかけてくるもん」
一郎「なにしたんだ?」
次郎「知らない。哲雄ちゃんちで卵焼き食べたっていったら、急にぶつんだ」

  
一郎「そうか・・・・・」

  
一郎「母さん、いま、心がいたんでいるんだ。だから、次郎、母さんにごめんなさいといいなさい」
次郎「(強く)ヤダ、だって、ぼく、わるくないもん」
一郎「次郎、母さんはいま病気なんだ。ごめんなさいと言ってあげなさい。(間)それに、明日、次郎、映画につれてってあげるから・・映画すきだろ?」

次郎「うん」
一郎「その包丁かしなさい」
次郎「うん」

  包丁を手わたす次郎。次郎の肩に手をかけ促す一郎。月の光がまばゆい。

明日に続く)

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