(20.6.11) なぜ自衛隊機は中国に飛ばなかったのか
今回の四川大地震に対するテントを中心とする援助物資の輸送問題ほど、不思議な顛末はない。
ことの起こりは5月27日に、「自衛隊機を含む支援の打診を、中国軍の少佐からされた」ことに始まる。
この打診を北京の日本大使館は中国の正式要請と判断して、本国に報告した。
翌28日に、町村官房長官が「自衛隊機を含め、支援の要請があった」と正式会見で述べた。
このため,各メディアは翌日の29日の報道で「自衛隊の派遣が実現すれば歴史的な出来事」と一斉に報じ、日本中が大フィーバーになった。
ところが29日の当日、中国外務省の武大偉外務次官が「機は熟していない」との談話を発表し、自衛隊機受入れに慎重な姿勢をとった。
その結果30日に日本政府は、「自衛隊機の派遣を見送り、チャーター機での支援物資の輸送」に切り替えた。
町村官房長官が「中国国内の一部に慎重論が出されているのを考慮した」との談話を発表している。
以上がことの経緯であるが、いくつかの点でとても不思議な気がする。ほとんどミステリーと言っていい。
まず中国軍からの自衛隊機派遣要請は「日本側が前もって伝えた提案の第五番目にあった提案内容(自衛隊機の派遣を中国から要請したらどうか)」の打診であり、そおした意味で、日本側のシナリオだったことである。
なぜ、日本は中国に「自衛隊機派遣要請をしてもらいたかったのか」が第一の疑問点である。
別にチャーター機でよかったのでなかろうか。
二番目の疑問点は、「日本大使館は中国軍少佐の打診を、なぜ中国政府の正式要請と判断したか」である。
常識的に考えれば、外務省でない中国軍の少佐(日本で言えば陸海空幕僚幹部の課長にも満たない軍人)の要請が、中国政府の正式要請であるはずがない。
しかし北京の日本大使館はこれを中国政府の正式要請と判断した。
なんとも不思議ではないか。
三番目の疑問点は、日本中が「世紀の出来事」とはしゃいでいたその日に、中国外務省の武大偉外務次官が「機が熟していない」と否定したことである。
「なぜ、中国外務省はすぐさま否定したのか」
余りにドタバタ過ぎないか。
ホームズとワトソン君に謎解きをしてもらおう。
「ホームズ、なぜ日本政府は自衛隊機の派遣を中国から要請してもらいたかったのだろうか。日本軍と聞くと中国の世論が反発することは、誰でもわかりそうなものなのに」
「これは中国ロビーの悲願のようなものだからだ。日の丸をつけた自衛隊機が中国まで飛び、中国から歓迎されれば日中間のわだかまりが一気に解消に向かう。
そおした賭けを外務省の中国ロビーが画策して、それを中国との関係改善に熱心な福田首相が了承したと言うことだろう」
「中国はそのシナリオに乗って、中国軍の少佐が打診してきたが、なぜ中国軍なのだろうか。中国外務省が窓口のはずだが」
「現在の四川大地震の復旧活動を実際に指揮しているのが軍部だからだ。中国国内では解放軍の力が強大だ。ちょうど戦前の日本を想定すると感度が合う。
したがって、当事者として外務省とは相談せずに、日本に要請の打診をしたのだろう。
今回は軍部が、『アメリカも韓国も軍用機で援助物資を運んでいるので、日本にも同じことを依頼』しようとしたのだと思う。。
なにしろ四川大地震の復旧は、実質的に軍部の専決事項になっているし、軍人であれば、こうした災害時に軍用機で物資を運ぶのが常識と思うはずだ。
日本大使館も中国の実情を知っているから、正式要請と思ったのだろう。
そうでなければ何事も慎重な外交官が勘違いするはずがない。
ところがこれを聞いて中国外務省が激怒した。『これは国内問題ではない。外交問題だ』と言うわけだ。
なにしろ中国外務省は過去、日本が災害支援等で自衛隊機を派遣するたびにクレームをつけてきた。
04年1月のイラク派遣では『中国にとって敏感なところがある』と述べたし、05年1月のスマトラ沖地震では『日本は海外活動拡大という強烈な願望を持っている』と牽制している。
外交権を軍部に取られたと思い、武大偉外務次官がすぐさま否定したのだと思う。『外務省は常に自衛隊機の海外派遣に反対だ』と言うわけだ」
「軍部と外務省の意見の相違を胡錦濤国家主席は把握していたのだろうか」
「どうもそおは見えない。それどころではないというのが実態だろう。自衛隊機であろうがチャーター機であろうが早く支援物資を運び込まなければ暴動が起こりそうだからだ」
「すると、今回のドタバタ劇は、元々日本の中国ロビーが書いたシナリオを、国内問題として軍部が受け入れようとしたのを、中国外務省が外交問題として否定したと言うわけか。
中国のお家の事情だね。それにしても今回の日本のメディアのはしゃぎ方はちょっと異常だったね」
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