(20.1.2)ちっちゃなかみさん
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驚いた。珠玉の短編小説と言うものがあった。平岩弓枝氏の「ちっちゃなかみさん」である。
最もこれを知ったのは本を読んだからではない。朗読会で知ったのだ。
ちはら台のコミュニティーセンターで年に6回行なわれる「目から耳から 本の世界のいざない」の一環として先日(1月31日)行なわれた朗読会のプログラムである。
朗読をしたのはちはら台に住んでおられる主婦の方で、おそらく2ヶ月間に渡って特訓したはずだ。
読み間違いもほとんどなく実に立派な朗読だった。
あえて言うと登場人物ごとの台詞を、その人物になりきって話すことに物足りなさを感じたが、これは実際にやってみると難題中の難題なので、求めるほうが無理かもしれない。
さらに私が感心したのはこの本の短編小説としての完成度であり、またこの本を朗読会用として選定したプロデューサの眼力である。
この会は実質的にちはら台の鬼軍曹が仕切っているのだが、鬼軍曹の小説を見る目は確かだ。
今回の「ちっちゃなかみさん」は短編小説としてのつぼを完全に押さえた名作だ。
私は平岩弓枝氏の本を読んだことはなかったが、今回の朗読会で聞いて平岩弓枝氏を知らなかったことを恥じた。
短編小説だから筋はいたって簡単である。
向島で3代続いた料理屋、笹屋の一人娘、お京が一方の主人公である。お京は今年で20歳になった。江戸時代だから嫁ぐのが少し遅いくらいだ。両親は縁談でやきもきしている。
一方お京はしっかり者の看板娘として店をきりもりし、親は手を出すすきもない。そして縁談話をすべて断る。自分では思う人がいるのだと言う。
相手はかつぎ豆腐売りの信吉といい、いたって評判のいい男だが、親から見れば、単に店に出入りしているかつぎ豆腐売りにすぎない。しかも娘は新吉とまともに口を利いたこともなく娘の片思いのようだ。
新吉と夫婦になれなければ一生独身ですごすと言う娘の言葉に両親は大慌て。さっそく新吉の身辺調査を始めると『ちっちゃなかみさん』がいるという。
実はこの『ちっちゃなかみさん』がこの短編小説のキーで、これがあるからこの小説を書いたようなものだが、新吉の姉がやくざな男との間に生んだ姉弟の姉の方である。
新吉の両親はすでに死亡しており、姉とやくざは駆け落ちして二人の幼子だけが残されている。『ちっちゃなかみさん』のお加世は11歳、弟の治助は6歳だ。
新吉はこの二人を実の兄弟として懸命に養育している。親代わりだ。そしてお加世は『ちっちゃなかみさん』として新吉を支えている。
まさにちいさなかみさんなのだ。
ここから話はクライマックスに入る。
お京が思い余って新吉に思いを告げたが,新吉からは断られる。姉弟二人が一人前になるまでは結婚することが出きないという。
それが死んだ父母との約束だと言うのだ。
お京は落胆し一生独身を宣言し、両親は「独身宣言」を聞いてさらに落胆してお寺参りに出かける。
一方新吉は、本当はお京を深く愛していたが、姉弟の手前じっと我慢をしている。しかし夜中になると『お京さん』と呻吟してしまう毎日だ。
それを『ちっちゃなかみさん』のお加世が聞いてしまい、自分たちさえいなくなれば新吉とお京が夫婦になれると小さな胸で決心をする。
11歳の少女の決心だ。
お寺参りをしていた夫婦に、後をつけてきた姉弟が新吉とお京を夫婦にしてほしいと懇願する場面がこの小説のクライマックスになっている。
11歳の小娘が自分たちを犠牲にして、兄の幸せを思う気持ちを告白する場面は、聞いただけで涙が出てしまう。
「弟は子守をしながら自分が面倒を見る」ので、兄の願いをかなえてほしいと言う。
作者は明確には言わないが、この時代少女に出来ることは女郎しかない。
私はほとんど嗚咽しそうになり、かろうじて耐えたが涙は留まるところがなかった。周りの人たちも涙を流していた。
最終的にはハッピーエンドになるのだが、それまでは胸が張り裂けそうだった。
この小説は日本人の琴線に触れる珠玉の名作だ。小さな姉弟が育ててくれた兄への恩返しとして、身を引いて犠牲になると言う心情は、日本人だったら誰でも泣いてしまう。
それにしても平岩弓枝氏の短編小説を創作する力量には驚いた。またそれを朗読会で取り上げた鬼軍曹の眼力にも敬服した一日だった。
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